第11話:バルガスの想い -1-
翌朝、彼らは砦を引き払った。
バルガスの身の回りの荷物は少なかった。
「余計な物は持たない主義でね」
彼は言った。
「けど、このポーションとか薬品の山はどうするの? バルガスさん」
薬品棚に並んだ瓶を指してロハスが聞いた。バルガスは肩をすくめた。
「置いていくしかないだろう。全部運ぼうと思ったら荷馬車でも必要だが、君たちは徒歩の旅だということだし」
ふうんとロハスは言った。その顔に邪悪な表情が浮かぶ。
「じゃあ。これは要らないモノということでいいのかな?」
「そういうことになるな」
その言葉を聞いた瞬間。
「じゃ! これ、オレがもらったー!!」
嬉々とした表情で瓶を『何でも収納袋』に放り込むロハスの姿があった。
茫然としているバルガスに説明する役目は、オウルが引き受けなくてはならなかった。
あれがロハスの持つ家宝の魔力アイテムであること。
生き物でなければ何でも入るらしいこと。
ということで全員、かさばる荷物は彼に預けていること。
「すまん。もっと早く説明しておくべきだった」
最後にそう付け加えたオウルに、バルガスは乾いた哂いを浮かべた。
「なるほど。つまり、このパーティーでは仲間内でも用心を怠ってはならないということなのだな。良かろう、大体理解した」
おそらくその理解は正しい。そう思うオウルであった。
魔犬の出る通路で再び餌となる肉を。
門前に出たところで鬼ガラスに対してもバルガスは餌をやる。
「これだけのカラクリとはねえ」
オウルは改めて感心した。
「これで人間を近付けないようにするには十分だ」
とバルガスは言う。確かにその通りだろう。合理的と言えば、そうだ。
「バルガスさん、こんなに肉をもってたんじゃん。昨夜の干し肉サイテーだったよ」
違う観点に目を付けている男が一人。
「確かに。カラスが食べている方が美味そうですな。それはどうかと」
そしてすかさずその尻馬に乗る男がもう一人。
うぜぇとオウルは思う。
バルガスは獰猛に笑った。
「食べたいのなら少し残しておくが。何の肉か知りたいかね?」
その顔に何か不吉なものを感じたのか、ロハスとアベルは全力で首を横に振った。
「イヤ、いいです。知らなくていい。むしろ、教えないで」
「肉はすべてカラスにあげてくだされ。魔物といえど生命、軽く扱ってはいけませんからな」
というわけで鬼ガラスが餌に群がっている間に彼らは森に入った。
目指すはシグレル村である。バルガスがアベルに頼んだのだ。その力で、あの村に魔物除けの封印を施してほしいと。もちろんアベルは一も二もなく引き受けた。
ロハスは首をかしげたが。
「だってさあ。あの村には元々、魔物は出ないんだよ?」
オウルとティンラッドもシグレル村に戻ることに同意したので、その疑問は立ち消えになった。