表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/309

第10話:アベルの使命 -6-

 試しにやってみろ、という話になった。

 魔犬のいる通路を横切り、隠し通路に入る。その裏側に描いてある紋章で試してみることになった。

「これはもう力を失っているからな」

 バルガスが言った。

「再び力を宿らせることが出来ると言うなら、是非やってみてもらいたい」

 その言い方が『出来るものならやってみろ』という風に聞こえるのは、バルガスの人徳と言うべきか。


「では、御覧に入れましょう」

 そして、そんなバルガスの口調に全く無頓着なアベル。腕まくりして意気揚々と紋章に向かう。

「これはですな。描き順も重要な要素なのです。描き方を間違えると正しく発動しません。ええと、どこからだったかな」

 描かれた紋章を眺め首をひねる。そのまま考え込んでしまった。


「左上ではないのかね」

 バルガスが口をはさんだ。

「はい?」

 アベルが顔を上げる。バルガスは仕方なさそうに紋章の一点を指さして見せた。

「この辺りが描きはじめに見えるが」

「おお、なるほど! 確かに!」

 アベルは俄然、元気を取り戻した。


「そうでした、そうでした! ここから描きはじめるのです。こうして、こう、こう」

 そこからは思い出したのか、軽い動きで紋章をなぞっていく。

 その合間合間に腕を上げたり振り回したり足を踏み鳴らしたり、珍妙な動作がはさまる。

「えーっと。アベル。それ、何やってんの」

 ロハスが呆れて訊ねる。

「お静かに。これは重要な要素です」

 アベルが真面目くさって言った。

「陣の描いた効果を高めるのです」

 そうこうしているうちにアベルは紋章をなぞり終わった。

「では、いきますぞ! パップンポルテ! トッポリーナ! プラポンタ!」


 珍妙な動きとともに、アベルの両手に光が集まっていく。そしてその背後にルーレットが出現した。

「どうやっても出るんだな、これ」

「ホント、やめて欲しいよね」

 ぼやく二人の言葉には無関係に、『1』のマス目が輝いた。


「む。1ですか。残念でしたな」

 不服そうにルーレットを眺めるアベルに、

「残念じゃない、残念じゃない」

 とオウルは苦々しい口調で言った。

「それで十分なんだよ。神官の使う術に賭博要素なんかいらねえんだ!」


「お得感が必要だと思いますがなあ」

 呟きながらアベルは両手を振り下ろし、

「神の名のもとに! 今、力を発揮せよ!」

 と叫んだ。


 アベルの全身から飛び出した光が、扉に描かれた紋章に吸い込まれる。紋章は一瞬激しく輝いてから、脈打つように明滅し始めた。

「なるほど。機能している」

 バルガスが半分驚いたように、半分莫迦にしたような声音で言った。

「大したものだ」

「当然ですな。私は大神殿に派遣された特使なのですから」

 そしてバルガスの皮肉がまったく効かないアベルは、ある意味最強なのかもしれないとオウルは思った。


「スゴイな、アベルちゃん。ただの妖怪じゃなかったんだね」

 驚くロハス。本音が口から出ている。

「もちろんですとも。さあ、これからはこの力でどんどん悩める人々を救いますぞ!」

 調子に乗っているアベル。

「もう寝ないか」

 どうでも良さそうなティンラッド。


 ぞろぞろと狭い通路を歩いて元の部屋に戻る時、

「もって三か月というところか」

 と紋章を眺めて呟くバルガスの声を、オウルは聞いた気がした。 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ