第10話:アベルの使命 -3-
食事が終わり片付けをしている途中で、バルガスが立ち上がった。
「君たちの仲間として最初の仕事をしたいのだがね。魔力を回復してもらえるか?」
皿を拭いていたオウルは、チラリとバルガスを見て言った。
「そのクサレ神官にもう一度回復してもらう度胸があるなら頼めよ」
アベルが嬉しそうにバルガスを見る。
「回復ですか。喜んでやりましょう。食事をしましたから一回くらいは神言を唱えることが出来ますぞ」
やはり魔力が少ない代わりに回復は早いらしい。つくづく普通の人間じゃない、とオウルは思った。
バルガスはアベルを疑わしそうな眼で眺め、
「すると、つまり彼のアレは」
つぶやくように言った。
「勝手に出るんだよ、アイツが術を使おうとするとな」
オウルの口調にはいまいましさがにじみ出ている。
「制御不可能なんだよ。運が悪かったな、さっきのアレはアンタのせいじゃねえ」
「なるほど」
バルガスはうなずき、戸棚に行って魔力回復のためのポーションを取り出して自分で飲んだ。
それから黒檀の杖を取り上げてティンラッドの方を見る。
「来るか?」
バルガスの寝台でゴロゴロしていたティンラッドは身を起こした。眠そうだった顔が引き締まる。
「行こう」
その声で、他の面々もそれぞれの武器を取って後に続いた。(アベルは空手だったが)
バルガスは、ティンラッドたちが通ってきた隠し通路を使って二層下まで降りた。それから隠し扉を回して本来の通路に出る。
しばらく歩くと魔力の気配が強くなってきた。
「魔犬だ」
オウルたちの間に緊張が走る。
「バルガスさーん。アンタの犬でしょ、何とかしてよ」
ロハスが情けない声を上げる。
バルガスは唇を歪め、持ってきた荷物の中から大きな包みを出した。
「それは?」
ティンラッドがたずねる。
「餌だ」
バルガスが答える。
通路の角から三匹の魔犬が姿を現す。それに向けてバルガスは包みを投げつけた。
魔物たちは彼らに目もくれずその包みに駆け寄り、争い合って食べ始めた。
「魔物化しているが元は犬だ。餌をやっていればある程度はこちらを見分けるようになる。だが長居は良くない。今のうちに行くぞ」
そう言い捨てすたすたと歩いて行く。
「じゃあ。アンタが魔物を従えているっていうのは」
オウルの問いにバルガスは皮肉な笑みを浮かべた。
「見てのとおりだ。連れてきて餌をやっているだけのこと。城門は開けてあるから山でも適当に狩りをしているようだがね。それはそれで私の目的には役に立った」
「そうか」
オウルは納得した。ひとつ謎が解けた。
「じゃあ、まだ魔物を従える術を誰かが見出したわけじゃないんだな」
それから別のことに気付く。
「今、『魔物化した』って言ったな。もとは犬だとも。やっぱり魔物は普通の動物が変化したものなのか。それはなぜ……」
勢い込んで聞くオウルに、バルガスは冷たい目を向ける。
「私は話さないと言ったはずだ。自分でたどり着け」
そのまま何も言わずに先に立って歩く。
勝手なヤロウだとオウルは思った。
自分に都合の悪いことはあくまで隠しておくつもりらしい。
やっぱりこのパーティには信用のおけるようなヤツは入ってこない。
もう分かっているつもりだったことを改めて思い知らされた気がして、腹が立った。