第10話:アベルの使命 -1-
武器を構えて乗り込んだ相手の家で、当の相手と共に過ごすことになるとはおかしな成り行きである。
オウルは多少なりとも居心地の悪さを感じたが、他の面々は根が図々しいのか、あまり気にしていない様子だ。
やっぱり、コイツらとは合わない。改めてそう思うオウルであった。
「うっわー。カチカチのパンと干し肉と、後は林檎しかないよ」
勝手に台所を漁っているヤツはいるし。
「この寝台を借りてもいいか? ちょっと眠くなった」
とか言って寝そべろうとしているヤツはいるし。
「おや、このヒモは何ですかな。ちょっと引っ張ってみてもいいですか。……うわあ~~!?」
とか、勝手なことをして床に仕掛けてあった落とし穴に落ちるヤツはいるし。
「それは、元々この砦にあった仕掛けだが」
バルガスは表情一つ動かさずに、床に開いた穴の傍に近寄って中を覗き込んだ。
「何代か前の主が、仕掛け好きだったようでな。この手のものが山ほどある。使い道があろうかと思ってそのままにしておいたのだが」
「おいおい。その下はどうなってるんだよ」
オウルはあわてた。
バルガスは人の悪い笑みを浮かべる。
「砦の基礎部分までつきぬけている。落ちたら即死だろう」
「落ち着いている場合じゃねえだろ!」
思い切りツッコんでしまった。
いくら使えない仲間とはいえ、こんな死に方をされては寝覚めが悪い。
バルガスは黙って穴の縁に身をかがめ、腕を中へ差し入れた。
半べそをかいたアベルが、引き上げられて部屋の床に上半身をうつぶせる。オウルはあわてて、アベルを引き上げるのを手伝った。
「この男、運はいいようだな。法衣の裾が仕掛けに引っかかって一命を取り留めたようだ」
それだけ言うと、興味を失ったように背中を向けてしまう。
「し……死ぬかと思いましたぞお~」
運だけが取り柄の男が床に両手をついて肩で息をする。
「余計なことするからだ。ちょっとはおとなしくしてられねえのか」
オウルはむっつりとアベルに言った。
「うーん。仕方ないなあ。今夜はオレが食材を提供しますか」
その騒ぎとは無関係に、他人の家で食べ物を物色していたロハスが言った。
「バルガスさーん。野菜も食べなきゃダメですよー」
もう馴れ馴れしく口をきいている。
「すまんね。食べ物にはこだわらない方でな」
バルガスは肩をすくめた。
ロハスはもう、夕飯の献立を考えることに集中している。
「干し肉を少し戻して、パンと一緒に牛の乳で煮て……。あと、野菜とキノコを林檎と一緒に焼くかあ」
食材を提供すると言った割には、バルガスの食糧も使い切る気満々らしい。
「彼は料理が出来るのかね」
バルガスがあまり興味もなさそうにオウルに聞いてくる。
仕方ないので、
「一応な」
と答えた。
「ただし、やれるってだけの話だ。アイツの作る料理は、くそマズイ」
「あー。ひどい言い方だなあ。オウルだって似たようなものじゃんよ」
ロハスはムッとした様子で言う。
「それに、この前、魔術で作ったパン、アレひどかったよ。小麦粉のムダだから、二度とやらないでね」
「ほう」
バルガスは軽蔑したような視線をオウルに向ける。
「魔術でパンを、ね」
それが大変、気に障る言い方だったのでオウルはキレた。
「うるっせえな! あの術は、まだ調整中なんだよ。お前らが、食い物がないって騒ぐからやってみただけじゃねえか。言われなくても、頼まれたって二度とやらねえよ」
「まあまあ、オウル殿。本当のことを言われたからといって怒るのは、大人げないですぞ」
そして、絶妙のタイミングで言わなくていいことを言うアベル。
「アンタは黙ってろ!」
怒りが頂点に達したオウルは、思いっきりアベルを怒鳴りつけたのだった。