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第9話:砦の魔術師 -15-

「ここで引くわけにもいくまい。それが出来るなら初めから……」

「こんなところにはいない、か?」

 ティンラッドは静かに問いかけた。闇の魔術師は何も言わず杖を捨て、剣を手にして立ち上がった。

「来い、戦士。剣で決着をつけよう」


「そうか」

 ティンラッドは無造作に皓月を構えた。

「こちらに異存はない。だが君、一つだけ間違っているぞ」

 精悍な顔に笑みを浮かべる。

「私は、船長だ」


「船もないのに船長か」

 バルガスは嘲って、ティンラッドに向けて斬りかかった。

「もう一つ間違えたな」

 ティンラッドは笑いながら言った。

「船はいつでも私を待っている。私が魔王を倒して、港に戻る時をな!」


 二人の持つ刃が交錯する。

 高い金属音を立て、火花を散らしあい。

 二人の剣は何度も何度もぶつかり合う。


「オウル殿。加勢しなくてもいいのですかな」

 アベルが聞いた。

 オウルは『アンタは引っ込んでろ』と思ったが、それは口には出さず。

「黙って見てろ。必要ねえよ」

 とだけ言った。


 バルガスの剣技は確かだったが、魔力を奪われたことで体力にも影響が出ていた。がっしりした体がティンラッドの打ち込みを受けると揺らいだ。

 加えて、ティンラッドにはスキル『必殺』がある。

 

 既に、バルガスは魔術による防護を失った。ティンラッドの攻撃を剣で受け止め続けているのはその驚異的な集中力と、身に着けた剣術の賜物だろう。

 だが、長くは続かない。


 何合目かの打ち合いでバルガスの剣が限界を迎えた。ティンラッドの斬撃を受け止めきれず、残響を残して根元から折れた。

 バルガスはすかさず剣をなげうった。

 そのまま捨て身でティンラッドに殴りかかろうとする。

「そこまでだ」

 長い脚が一閃した。

 ティンラッドの蹴りが、バルガスの脇腹に命中した。


 バルガスは倒れ込んだ。水しぶきが飛ぶ。

 ティンラッドはゆっくりと近寄り、その目の前に刀の切っ先を突き付けた。

「何か言うことはあるか?」

 バルガスは哂った。

「殺せ」

「そうか」

 ティンラッドは無感動に言った。

 白い切っ先がバルガスの眉間に突き刺さる。赤い血が流れた。 


 少しして、バルガスは不審そうにティンラッドを見上げた。刀の先は彼の額に少し食い込んだだけで停まっている。

「どうした。それでは私を殺すことは出来んぞ。まさか怖気づいたか?」

「いや。別に、君を殺しに来たわけではないことを思い出した」

 ティンラッドは言った。

「私はただ魔王についての情報を求めたかっただけだ。君は何かを知っているらしいが、ここまでしても口を割らないのでは何をしたってダメだろう」

 そして、彼はあっさりと皓月を鞘に納めた。

「そこでだが君。今、死んだと思って私と一緒に来なさい。君はなかなか面白そうだ」

 バルガスは水たまりに座り込んだまま、意味不明なものを見る目で前に立つ男を見上げた。


 そして離れたところでは。

「うわあ」

「やったよ」

 オウルとロハスが、ため息をついていた。

「つうか、それってアリなの? だって闇の魔術師だよ?」

「知るか。船長的にはアリなんだろ。あのオッサンにかかったら何だってアリなんだからな」

 オウルの視線は傍に立つアベルの方に向かう。

「私は感心しませんなあ。魔の側に身を置いたものを傍に置くとは。きっと裏切ったり、我々に害をなすことをいたしますぞ」

 しきりに首を振って、そうこぼしている。


 それを見てオウルは思った。

 本来、全力で反対すべき事態なのだが。

 ここにアベルが仲間面して立っていることを考えれば全然アリと言うか、むしろマトモな人選に思えてしまうのはなぜだろう、と。


 もしかして自分もだいぶティンラッドに毒されてしまっているのか。

 そう思うと、愉快ではないオウルであった。 



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