第1話:沈黙の鐘が鳴る -7-
翌朝。
盗賊団退治に関わった民間人には一律、国王から銀貨一袋の報奨金が渡されることになった。
ティンラッドがそれを受け取るのを、オウルは複雑な表情で見ていた。
「盗賊団を半数近くやっつけたアンタの褒美が、それっぽっちとはねえ」
「別にいい」
ティンラッドはどこ吹く風だ。
もっとも、兵士たちとしては別の言い分もある。
暴れ回っていたティンラッドは、最後は暴れすぎて兵士たちに取り押さえられる事態になった。
その際、彼に吹っ飛ばされて負傷した兵士も多数。
ティンラッドが盗賊を次々に倒すところを見たという証人が何人もいたため、無罪放免になったが。
兵士たちとしては、「こんなヤツに渡す報奨金は一袋でも多すぎる」と言いたいところである。
ちなみに、オウルも面倒に巻き込まれるのを恐れ、自分が鐘を鳴らしたことは申し出ていない。
この街で暮らして二年、古くから住む人々が、あの鐘に特別な思い入れがあるのを彼は知っていた。
非常時とはいえ、魔術をかけて鐘を鳴らした……などと言ったら、どんな目に遭わされるか分からないと思ったのだ。
しかし、その結果、オウルに対する報奨金はなし。
二人で銀貨一袋、という損得勘定で言えば惨憺たる結果に終わった。
「別に、金のために暴れたわけじゃないからな。かまわない」
「へー。船長さんは、懐が大きくていらっしゃるんですな」
そう言ったオウルの言葉は皮肉だが、ティンラッドはどこ吹く風だ。
「どうだ。この金で、酒でも飲まないか。キレイな女の子でも集めて」
「はあ? そんなことに使っちまう気かい、アンタ」
オウルは驚いて目をむく。
「本気で旅立つなら、そんな装備じゃダメだろ。武器や防具をそろえなきゃいけないし、水や食料、それを運ぶ馬だっている。それくらいの金、あっという間になくなるぜ」
言っている途中で、オウルはティンラッドが笑っているのに気付いた。
「何だい、旦那。何がおかしい」
「そりゃおかしいさ。君は旅立ちに消極的だと思っていたが、なんだ、私より積極的じゃないか」
その言葉に。オウルは痩せた頬をさっと赤らめる。
「いや、俺はただ! 俺も行くなんて、言ってないし!」
「必要な物があったらこの金で買いたまえ。私は特に必要ない」
「いや要るだろ! 剣の一本も持たずに、魔物だらけの荒野に出て行く旅人なんていねえよ! じゃなくてだから、俺は行かないって! 言ったろ、俺は戦闘向きの魔術師じゃないんだよ、連れて行っても足手まといになるってば」
「別にいい。それなら、敵はすべて私が倒せるということだしな」
そう言って、ティンラッドはいつもの通り不敵に笑った。
「それから、私のことは船長と呼びなさい」
こうして。
「陸に上がった船長」と、「攻撃スキルのない魔術師」のパーティが結成され。
魔王を倒すための、あてのない旅に出ることになったのであった。
彼らの未来に幸あれ。
(参考)
ティンラッド
しょくぎょう:せんちょう
わざ:ひっさつ(全ての攻撃を「かいしんのいちげき」判定にする)
オウル
しょくぎょう:まじゅつし
じゅもん:ソリード(敵を動かなくさせる。効果は敵の魔力値によって変動)
ファーデ(自分と味方の姿を見えなくする。影は消せない)
アニリョ(壊れた楽器などを一時的に修理し音を出す)
アラバル(自分の声を大きくして辺りに響かせる)