第9話:砦の魔術師 -8-
炎の雨が砦の屋上に降り注ぐ。
「うおおおお! 足が動きませんぞお?!」
叫ぶアベル。
「ちょっとちょっとちょっと! 防御魔法はよ?!」
逃げまどいながら、わめくロハス。
「悪ぃ。今やる」
オウルは杖を構え直した。
「順番違う! そっちが先でしょ?!」
ロハスはツッコむが、オウルはかたくなに首を横に振る。
「いや、これでいいんだよ。こうしなきゃ、そのクサレ神官あっという間に逃げ出すじゃねえか」
「イヤ絶対順番違うから! オウル、何かを見失ってるよ?」
ロハスはなおもツッコんだが、オウルは気にせず杖をふるい、まずは全員に防御魔法をかけた。
そして、後ろで騒ぐ面々に構わず。
ティンラッドは炎をものともせずにまっしぐらにバルガスに襲い掛かっていた。
皓月の刃が走る。カシンと高い金属音が響く。
バルガスは腰につけていた剣を抜き、ティンラッドの一撃を受け止めていた。
ティンラッドが獰猛に笑う。
「使えるな、魔術師」
「田舎者なものでな」
バルガスもにやりとする。
「何でも出来ねば生きていけんのだよ」
二人は刃を交えたまましばらくにらみ合った。
「船長、動くな!」
オウルが後方から叫ぶ。
月桂樹の杖を構え『エレバル!』と唱える。
呪文の効果がティンラッドに届く前にバルガスは剣をひねり、刃をずらして大きく後ずさった。
そのまま、もう片方の手で黒檀の杖を構える。
「バラムィ・カルナル!」
烈風が吹き出した。
ティンラッドは左手を上げて目をかばう。その手や頬を風の刃が傷つける。
後方でも風の猛威は吹き荒れていた。
「痛い! ちょっとオウル、防御魔法、効いてないよ!」
ヒノキの棒を振り回してもどうにもならない攻撃に、たちまちロハスが音を上げた。
「効いてないわけじゃない」
オウルは反論した。
「ただ、向こうの術の威力が強いんで力負けしてるだけだ」
「そんなこと冷静に言われても困るんだけど!」
ロハスは文句をつける口調になる。
「とにかく何とかしてよ。同じ魔術師として情けないでしょうが」
そこまで言われる筋合いはないと思ったが。確かに、やられっ放しというのは性に合わない。
「とりあえずは防御を重ね掛けするぞ」
月桂樹の杖を振り回す。
もっとも、重ね掛けした魔術の効果は落ちる。相手が実力のどのくらいを出してきているか分からない状態で、効果があるのかは疑問だが。その辺については口に出さないことにした。
防御を重ねながら、相手のステイタスを確認する。
バルガス
しょくぎょう:やみのまじゅつし
Lv29
つよさ:220
すばやさ:180
まりょく:750
たいりょく:250
うんのよさ:48
そうび:まじゅつしのローブ
もちもの:こくたんのつえ
オウルはギョッとした。
一般の魔術師より遥かに高い攻撃関係の数値はともかくとして、魔力値が異常だ。人間のステイタスはどの項目でも最高値が五百。それは、アベルの幸運値でも証明されたはずである。
だがバルガスの魔力値は、その常識を凌駕していた。
「どういうことだよ」
オウルは呟いた。
これは有り得ない現象だ。
「ひいい。まだ痛いよお」
「痛いですぞお」
ロハスとアベルが悲鳴を上げているが。
「大勢に影響ないだろ。我慢しろ」
オウルは冷たく言い捨てて、この状況を何とかできないかと必死で考えた。