表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/309

第9話:砦の魔術師 -1-

 数日かけて砦にたどり着いた。

 その間も、アベル(の幸運)による『反対方向への誘導』は続いたが。

 ティンラッドはそんなことを気にせず前に進む、アベルは謎の気配に気を取られて回れ右しようとする、で。間に挟まれたオウルとロハスだけが消耗する、そんな道中であった。


「とにかく、着いたな」

「ああ、着いた」

 二人は遠目に見える崩れた城砦を眺めて、確認し合った。

「とりあえず、これでもう今までみたいな苦労はないはず……って」

 振り向いた瞬間、オウルは我が目を疑った。


「今、どこかでうら若い乙女の叫び声がしましたぞー」

 とか言いながら、まっしぐらに道を逆走していくアベルの姿が目に入ったのだ。

「そんなもんいねえよ!」

 何とか追いかけてアベルを引き戻したオウルは、そう怒鳴り散らした。

「ロハス! 縄かなんか出せ。コイツ、縛り付けでもしないとどこに行っちまうか分からねえ」

「了解」

 ロハスもうなずいて、素早く『何でも収納袋』から縄を出した。

 それを使って二人でアベルを縛り上げる。


「ああっ、ご無体な! 何をなさいます」

 悲鳴を上げるアベル。

「うるせえ。今さら一人だけ逃がすか。ここまで来たらなあ、一蓮托生なんだよ」

 そういう自分の言葉はほとんどヤケクソな気もしたが。

 とにかく、ひとりで逃走するのだけは許せない。何だか、そんな気分になっている。

「死ぬ時は一緒に死のう、アベルちゃん」

 思いは同じなのか、ロハスも真面目な顔でそんなことを言っている。

 この顔ぶれでの心中はイヤだ。そうオウルは思ったが。

 アベルだけが生き残るのはもっと腹立たしい。それが本音である。


「君たち、いいか?」

 ティンラッドが振り返った。

「目に見えるところに見張りはいないようだが。魔物の気配はぷんぷんする。近付けば何かしらが襲ってくるだろうな」

 真剣な声だ。

 オウルも気を引き締めた。ロハスも表情を厳しくしている。

 アベルだけが相変わらずの調子で、

「ね、ね。ほどいてくださいよ」

 と哀願していた。


「とりあえず、あの入口まで走るぞ。いいか?」

 ティンラッドは離れたところに見える砦の門を指さした。アベルの哀願をガン無視した態度に、オウルはヒドイなと思ったが、自分も取り合う気はしないので特にツッコまなかった。

「ちょっと待ってくれ、船長。先に、全員に防御魔法をかける」

 オウルは言って杖を取り出した。

「待って待って。オレ、防具をつけるから」

 ロハスがあわてて『何でも収納袋』の中を探り出す。

「あのう。この縄をどうか」

 アベルが哀願する。

 

 全ての準備が整って(アベルは縛られたままだったが)、四人は道の先に視線を集中した。

「死ぬ気で走れ」

 新月を抜いたティンラッドが低く言う。全員、無言でうなずいた。

「行くぞ!」

 声とともに。

 ティンラッドが長い脚で走り出す。

 オウルとロハスもそれに続いた。

 アベルも縛られたまま、よたよたとついて来る。

 紐の端っこをオウルがしっかりと握っているからだ。


「来たぞ、気を付けろ!」

 ティンラッドの声が響く。

 何が、と問い返す暇もなく。

 無数の弾丸のようなものが空から次々に降り注ぐ。


「ひえええ!」

 既におなじみになったロハスの悲鳴が響く。

「なんか来た、なんか来た、何か来たあ!」

「お助けあれえ!」

 アベルの悲鳴も重なる。

 うるせえ、とオウルは思った。

 叫んでいる暇があったら、敵を見定める努力くらいしてもらいたい。


 その間に、次の攻撃が降りかかった。

 走りながら避ける彼らに。

 落ちてきたそれは軌道を変え、襲い掛かった。  

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ