第1話:沈黙の鐘が鳴る -6-
その頃。
「暴れたい」と言い放ったティンラッドは、言葉のとおり大暴れしていた。
通りを歩く怪しい一団を見つけ、猛獣の如く襲い掛かる。
相手に釈明のチャンスなど与えない。一撃必殺、彼が海で身に着けたスキル「ひっさつ」で、瞬く間に十人を戦闘不能にする。
船での戦闘は、常に揺れる足場の悪い中で行われる。
天候の変化、潮の動きにも常に注意を払わなくてはならない。
それに比べたら、固い大地を踏みしめての陸での戦闘など、彼にとって児戯にも等しかった。
次に見つけた怪しいヤツの手から、持っていた松明を蹴り飛ばす。
オウルがいたら、「無関係な旅人だったらどうするつもりなんだよ」とツッコんだかもしれないが、そんな配慮はナシである。
とにかく、暴風のように暴れまくる。
幸い、彼が襲ったのは盗賊の一味だったらしく、全員が剣を抜いて立ち向かってきた。
「そうでなくては面白くない」
ティンラッドは不敵に笑った。
彼は、徒手のまま。
相手が飛び込んでくるのを待たず、こちらから飛び込んで、殴る、蹴るでカタをつけていく。
「すばやさ」の高い彼は、相手の攻撃も楽々よける。
そのため、同士討ちして自滅していく盗賊もいる。
その調子で三つ目の集団を壊滅させた時。
街に、鐘の音が響き渡った。
同時に。
「盗賊が来たぞ。街に、盗賊団が入り込んでいるぞ」
というオウルの声が、拡声されて響き渡る。
「ふうん、考えがあると言ったのはこれか」
ティンラッドは鐘楼を見上げて呟いた。
寝静まっていた人々も、この騒ぎで目を覚ますだろう。
戦う力のない人も、防備をするだろうし。
腕に覚えがある者は、盗賊団を何とかしようと通りに出てくるだろう。
兵士たちも動き出す。
盗賊たちの目論見通り、街に火が放たれても、燃え広がる前に対処ができるだろう。
「まあ、悪くはないな。だが、早すぎる」
そう言って、彼は走り始めた。
「私はまだ、暴れたりないぞ!」
彼は走った。
その先。
城門前の広場に二十人余り、覆面をした男たちが集まっている。
その中の、ひときわ体格のいい男が、他の者たちに指示を出していた。
「早く四方に火を放て! 燃え上がりさえすれば、兵士どももそれを消さないわけにはいかん。ここまで来て空手で帰るわけにはいかんぞ、少しでも多くのお宝を持って帰るんだ。女でも構わんぞ」
その下知に、男たちが少し笑った。
松明を持った男たちが、一斉に四方に散ろうとする。
「なるほど、君が首領というわけか」
ティンラッドはニヤリと笑い、まっすぐにそちらへ突っ込んでいく。
「なんだ、貴様?!」
彼の突進に気付いた部下たちが、首領の前に立ちはだかる。
「私か。私は、船長だっ!」
そう言った時には、三人が倒れている。
「何だ、コイツ?!」
「強いぞ。囲めっ」
しかし、その動きはティンラッドに読まれている。
「囲まれたら不利と分かっていて、囲まれるバカはいない!」
「すばやさ」の高さと「ひっさつ」の威力は、多数を敵に回しても圧倒的な力を発揮する。
すぐに盗賊の手下たちは、街路の敷石の上に倒れこんだ。
「この野郎! 生かしちゃおかないぞ」
盗賊の首領は、剣を抜いた。
この「盗賊の剣」の殺傷力は高い。
だがその重さゆえ、抜くと使用者の敏捷性を減らす武具だった。
もちろん、ティンラッドにしてみれば絶好のカモである。
「甘いっ!!」
怒声ともに、必殺の蹴撃一発。
それで、文字通り「ケリ」がついた。
「弱いな。弱すぎる。私はまだ、暴れたりないんだ!」
そう叫んで、ティンラッドはさらなる獲物を求め、ざわめき始めた街の中を駆けて行った。
この夜、兵士たちが集まる前に彼によって倒された盗賊は約五十人。
侵入した盗賊団の、約半数に及んだ。