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第8話:西の砦へ -2-

 アベルを問い詰めた結果、以下のことがわかった。

 まず『ビックリドッキリルーレット』は彼の意志に関わりなく、術を使おうとすると勝手に発動する。

 円盤の数字は、同じ術を短時間に繰り返そうとすると変動する。

 その変動は『1』などの無難な数字が減り、『3』『-3』などの大きな数字が増えていくという方向性である。


「つまり賭博の論理ね。やればやるほど賭け率が高くなるという」

 ロハスが渋面を作っている。

「当たりが大きくなる分、はずれた時の危険も大きくなるわけだな」

 オウルも負けずに渋い顔になっている。


 そうもなろうというものである。

 回復という術に人が一番求めるものは確実性ではないだろうか。

 アベルはそれを根底から引っくり返している。


「だいたい、効果が三倍になったからって、何の意味があるんだよ。元以上に健康になるとでもいうのか。元通り以上にはならないだろうがよ」

「いやいや。そうでもありませんぞ」

 なぜだか偉そうに首を振るアベル。

 この男はどうしてあのルーレットが使えるものだとカン違いしているのか。意味が分からない。


「効果が二倍、三倍になるということはですね。本来なら二度、三度と神言を重ねがけしなければならないところが一回で済むということです。魔力も一回分で済む。これをお得と言わず、何と言えば良いのです?」

 まるでロハスみたいなことを言う、とオウルはげんなりした。

 だいたい、神の力を行使して回復を行うのに、『お得』という言葉が出てくるのがおかしい。

 いや、もうアベルの存在そのものが何もかもおかしいのであるが、それにしてもツッコまずにいられない。


「オレ、回復には地道に薬草を使うわ」

 ロハスが言った。

「ああ。たっぷり仕入れておいてくれよ」

 オウルもうなずいた。

 この神官に命を預けるのは危ない。それが二人の共通認識となった。


「ご心配なく。私の魔力量はちょっとばかり少ないですが、昼寝でもすればすぐに回復しますので。いつでも皆様のお役に立ちますよ」


 ああ。その上、魔力も少ないのだった。

 たった二回、回復呪文を唱えただけで、アベルの魔力量はもう一ケタになっている。

 あらゆる意味で使えない。


「いやいや。それはそれで天の恵みかもしれないよ」

 慰めるようにロハスが言った。

「考えてもみてよ。もしアベルの魔力量が人並みだったりしたらさ、いくらでも重ねがけ出来ちゃうんだよ?」

 そこでオウルは思い出した。重ねがけするほどに、ルーレットの賭け率が危険になっていくことを。


「だな」

 うなずいて、ため息をつく。『陸に上がった船長』『攻撃呪文の使えない魔術師』『ごうつくばりの商人』『クサレ神官』。

 こんな面子で、魔物を率いているという得体のしれない魔術師に戦いを挑みに行こうとする自分たちは単なる自殺志願者なのではないだろうか。そんな気がしてたまらなくなってくるのだった。


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