表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/309

第7話:森の怪異 -10-

 その牙が届きそうになった瞬間。

 ティンラッドは身を沈めた。

 そのまま。

 張り渡された網の下をくぐり、その反対側に身を滑らせる。


「いいぞ。離せ!」

 オウルの声がした。

「ひえええ」

 ロハスの悲鳴。

 

 長身のティンラッドの頭を食いちぎろうと跳んだ魔物は。

 道を横切って張り渡された網に、頭から突っ込んでいた。

「ロガム!」

 オウルの声が響く。

 月桂樹の杖が網を叩く。


 頭から突っ込んだ魔物に巻き付き、絡んだ網は。

 見る間に色と材質を変え、魔物の動きを固く拘束する。


 ロガム。

 物質を一時的に金属に変化させる呪文である。

 もがく魔物の爪も牙も。

 体に食い込む網を、簡単に引き裂くことが出来なくなった。


「船長。長くはもたねえ」

 オウルが言う。ティンラッドはうなずいた。

 もう、魔力は十分にためてある。

 こうなっては、魔突を使うほどの相手ではなかったが。

 「彼」との戦いは楽しかったから、ティンラッドは惜しいとは思わなかった。


「魔突・諒闇新月!」

 声とともに。魔力を乗せた突撃が、魔物の頭を砕く。

 一撃で、魔物は息絶えた。


「やれやれ。死ぬかと思った」

 道にへたり込むロハス。

「まあまあ楽しめたな」

 刀身に付いた血をぬぐい、ティンラッドは新月を鞘におさめた。


 オウルが木から下りてくる。

「何とかなって助かったぜ。しかし、きついな」

「きつい? 何が」

 たずねるティンラッドに、オウルは眉を上げる。

「アンタは楽しんでるかもしれないがね、船長。俺たちは魔物が出るたびに冷や冷やなんだよ。命がけとか、趣味じゃないんだ」


 そう言って、オウルは来た道を少し戻った。視界の隅に、シグレル村の境界を示す道標が立っていた。

 オウルはかがみこんで、それを子細に調べ始めた。


 ロハスはロハスで、元の材質に戻りつつある網を、おっかなびっくり回収する。

「ああ、もう。少し破けちゃった。オウル、補修してよね! これじゃ売値が下がるじゃないか、その分の損失はどうしてくれるのよ」

「知るか。おかげで命が助かったんだから、差し引きゼロだろう」

「それとこれとは別」

 そう言ってから、ロハスは魔物の死骸に目をとめた。


「オウル。皮なめしの術が使えたよね。コイツの皮はいで! ヒョウ皮は、高く売れるぞお」

 もう嬉しそうな顔をしている。

 ブレないヤツ。

 と、オウルは思った。


「あ。それより。船長の傷、手当てしなきゃ」

 思い出したように、ロハスはティンラッドを振り返る。

 いや、本当に今思い出したのだろう、とオウルは思う。


 網>ヒョウ皮>船長、という重要度がハッキリ分かる。

 ひどい話である。


「あの神官がいればな」

 苦々しい思いでオウルは立ち上がり、振り向いた。

「アイツ、あっという間に逃げやがった。信じられねえ」


 その時。木立の間から、パチパチと手を叩く音がした。


「逃げてなどおりません。私、神官アベル。ここにて皆様の戦いを見守らせていただき……いや、いつでも助力できるように待機しておりました」


 アベルが、木の陰から顔を出し。

「いやあ、皆様お強い。これで私も、安心して皆様とご一緒に旅ができます」

 にこやかに笑っている。


-アベルがなかまになりたそうにこっちをみている!-


「あっ、てめえ! よくもおめおめと、また顔を出せたな!」

 怒るオウル。

「何がいつでも助力できるように、だ! だったら、いくらでも船長に回復呪文をかけるヒマはあったろうよ。全部片付いてから顔を出すとは、どういう了見だよ、お前!」


「呪文ではありません。神言ですぞ」

「どっちでもいいんだよ!」

 叫ぶオウル。


「いいか。船長が何といおうと、金輪際俺はお前が仲間だなんて認めないからな! 大事な時にパーティーを見捨てて逃げるようなヤツに、背中はまかせられないんだよ!」

「まあまあ、オウル殿。そんなこと言わずに。怒ると健康によくありませんぞ」

「お前が言うなあ! お前のせいで怒ってんだよ!」


「オウル。そう怒鳴るな」

 ティンラッドが飄々と言う。

「戻ってきたなら、それでいいだろう。探す手間も省けたし」

「そうそう。船長のケガも治療してもらわなきゃいけないし」

 同調するロハス。


「知るかあ!」

 オウルは怒鳴った。

「俺は嫌だぞ! こんなヤツ、仲間じゃねえ! 森に帰れ、この妖怪!!」

 その怒号は。森の中にこだまするのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ