第7話:森の怪異 -6-
というわけで、アベルが仲間に加わった!
ちなみにアベルは比較的軽く同行を承知した。森での妖怪生活に飽き始めていたのかもしれないとオウルは思った。
ロハスがいやいやヒカリゴケのお守りを渡す。
その結果、
「うわー。オレ、ステイタスが最高値に達したヒトって初めて見たよ」
「ステイタスの最高値が五百だって噂、本当だったんだな……」
別に知らなくても良かったことを、その目で確かめることになってしまった二人であった 。
ヒカリゴケ装着後のアベルのステイタスは、以下のとおり。
アベル
しょくぎょう:しんかん
Lv5
つよさ:9
すばやさ:275
まりょく:16
たいりょく:64
うんのよさ:500
そうび:しんかんふく
もちもの:ヒカリゴケのおまもり
「余計に不可解なステイタスになったな」
オウルは呟く。
魔力は16しかないのに、幸運は最高値に達している自称神官。命を預ける相手としてどうかと思う。
「さあ、皆さん! それでは、張り切ってまいりましょう」
そして、やけに元気なアベル。
その調子のいい声を聞いただけで、オウルは体力を吸い取られているような気がする。
「西の砦に魔物が巣食っているのですか」
目的地を聞いて、アベルは顔をしかめた。
「それは初耳ですなあ」
「アンタ、西から来たんだろう。どうやってソエルに入ったんだ」
オウルは訊ねた。アベルがあの森に来たのが一年前なら、すでに国境は魔物によって封鎖されていたはずだ。かといって砂漠越えの過酷な道をこの男がとったとは思えない、何となく。
「いや、別に。険しい山を越えましたが、特に何ということもなく」
アベルは首をかしげる。
「険しいって。西の国境には、そこまで険しい山はねえよ」
高山というほどの標高の山は、ソエルの領土内にはない。
「いえいえ。道なき道をかき分け、岩場を登り、猪と鉢合わせし」
「それ、アンタが道に迷っただけじゃねえの?」
街道は整備されているので、通常そんな目に遭う旅人はいない。
「そして気付いたら、この森におりました。魔物になど会いませんでしたなあ」
と言うアベル。
「うーん。これは。道に迷ったせいで魔物がいっぱいいる場所を避けたってコト?」
ロハスが眉根を寄せる。
「そうだな」
幸運値最高は伊達ではないらしい。
アベル。恐ろしい男だ。そう思うオウルとロハスだった。
「まあ、仲間になったからにはよろしく頼むよ」
観念して、オウルは言った。
この幸運の高さが、パーティに幸いすることもあるだろう。そうとでも思わないとやっていけない。
「そうそう。オレが怪我したら、回復よろしくね!」
根回しに入るロハス。
「もちろんですとも。私の聖なる回復神言で、必ずや皆様のお役にたちますよ」
胸を張るアベル。
「それで。さぞかし皆さまはお強いんでしょうな。何しろ魔王に挑戦しようというのですから」
ゴマをするようにニヤニヤしながら訊ねてくる。
それはなかなかこのパーティの微妙な部分に関わるところだ。
「船長は強いぜ」
オウルは視線をそらして答えた。
「ウン。船長さんは強い」
ロハスもうなずいた。
「そうですか。それは頼もしい。それでお二人はどのような技がお得意で?」
「ああ。戦闘になれば分かるよ」
「ウン。そうしたら多分、アベルさんが声をかけられたわけも自分で分かると思うよ」
そろって答えるオウルとロハス。
いつの間に自分はこいつとこんなに息が合ってしまったのか。それがオウルは何だか哀しい気がする。
「ふむ。楽しみですな。私の神言の冴えもどうか楽しみにしておいてください」
しきりにうなずくアベル。
「ああ。頼むぜ、本当に」
オウルは心から言った。
回復魔術(神言)は、パーティの要と言っていい。その使い手がいるだけで戦闘はずいぶん楽になる。そして、回復術は神官の操る術としては基礎的なものだ。
だから、もうそれだけでいいやとオウルは考える。基礎の基礎、回復さえちゃんとやってくれるなら後は目をつぶろう。たとえ人間というより妖怪的な相手であっても仲間として扱おう。
というか、もうそうせざるを得ない状況になってしまっているし。
その時、
「君たち。武器を取りたまえ」
ティンラッドが低い声で、だが口許に笑みを浮かべて言った。
「どうやら、その機会が来たようだぞ。魔物の気配だ」