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第7話:森の怪異 -5-

 というわけで、この森に『オクレ妖怪』が誕生するまでの聞かなくても別に良かった物語が明らかにされたわけであるが。

「まあいい。そのことはこれでいいとしよう」

 あんまり良くはなかったが、深く考えれば考えるほど頭が痛くなるというか腹が立ってくるのでそれは強引に流す。オウルにはまだまだツッコみたいことがあった。


「アンタのステイタス。いったい何をどうすればこんなことになるんだ。素早さだけやたらに高いし」

 本来、神官というのはどちらかというと鈍重な職業である。神官服が動きにくいこともひとつにはあるし、祈祷書だのなんだの持ち物が多いせいもある。


 そこまで考えて、『この神官はそういう神官がフツウ後生大事に持っているものをとっくの昔に博打代だか飲み代だかのために売り払ってしまったのだ」ということに気付き、全然信心深くない身の上であるにかかわらずオウルは気分が暗くなった。

「子供の頃から、かけっこには自信がありまして」

 嬉しそうに言うアベル。

 誰もほめてないよとオウルは思う。


「あと幸運だ。こんなとんでもない数値、見たことねえぞ」

 繰り返すようだが、人間においてステイタスの最高値はどの項目でも五百が上限と言われている。アベルの幸運値は、最高に近い。

「神のご加護ですな」

 アベルは言い切った。


 いったいどこをどうすればそんな結論が出てくるのか。

 自分の今までの行いのどこに神のご加護をもらえる要素があるのか。

 この男は自省とか反省とかいう言葉を知らないのか。

 オウルは眩暈がした。


「もういい」

 なぜかずっしりと疲れを感じて、オウルは肩を落とした。

 こいつを人間だと思ったのが間違いだった。これは森に住まう妖怪である。言葉が通じると思ってはいけなかったのだ。


「聞きたいことはすべて聞いた。今後も妖怪生活を楽しんでくれ」

「いえいえ。あなた方にも神のお恵みがありますように。お礼と言ってはなんですが、魔除けのお祓いをして進ぜよう」

 と神官服の中を探り、

「おや。祈祷書がない。数珠もないですな」

 不思議そうに首をひねる。


「だから。それ、売ったんだろう。アンタが自分で」

 力なくツッコむと、

「ああ、そうでした、そうでした。しかし困りましたな。それがないと御祈祷が」

 ものほしげな目でロハスを見る。視線に気づいた商人はギョッとした顔で手を後ろに回し、

「ない。ナイナイナイ、持ってない」

 とすごい勢いで首を横に振った。


 オウルはもはや呆れるのを通り越して感心した。

 ここまで厚顔になれるのか、オクレ妖怪。会ったばかりの他人に平然と物をねだるとは。

 ごうつくばりのロハスをここまで顔色なからしめるというのは、一種の超能力とも言えるかもしれない。


 すると今まで黙っていたティンラッドが、物憂げに口を開いた。

「君。神官さん。アベルとか言ったな」

 その声を聴いた瞬間、オウルはとてつもなく悪い予感がした。


「私はティンラッドという者だ。職業は船長。魔王を倒すため旅をしている。君、やることがないのなら、私たちと一緒に来ないか?」

「せーんーちょーうー!!」

 一拍遅れたが、大声でティンラッドを怒鳴りつける。


「何だ、オウル。君だろう、前から神官を仲間に入れろとうるさかったのは」

 確かに。確かにそうだが。

 求めているのはこういう神官じゃない。それだけは自信をもって言える。


「船長。よく考えろ」

 オウルは低い声で言った。

「ステイタスって言うのは、本人の生き方が出るもんだ。ちょっと見てみろ、コイツのこのおかしなステイタス。それに今の話も聞いてただろう。こんなヤツを仲間にしたら、絶対何か問題を起こすって」

 観相鏡を差し出すが、ティンラッドは手を出そうともしない。


「いいじゃないか。このくらいの方が面白いぞ」

「面白くねえ。絶対に面白くねえぞ」

 オウルは言い張った。

「百歩譲って面白かったにしても、パーティには面白さよりも優先すべきものがあるんだよ。安全とか戦闘力の高さとか、何より常識とかな!」

 それは魂の叫びであったが。


 そもそもティンラッドを相手にそれを説いている時点で、それは無駄な説教なのだ。

 と、叫んでいる最中にオウル自身も気付いてしまったのだった。

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