第6話:平穏な村 -5-
その後、三人は村の宿屋に案内された。ここも例によって、酒場部分以外は開店休業状態だったが、村人の紹介のおかげで速やかに宿泊させてもらえることになった。
「しかし、まいったなあ」
ロハスがぼやく。
「何がだ」
オウルが尋ねると。
「ヒカリゴケのお守り。あれで商売しようと思って、いっぱいもらって来たのにさあ。当てが外れたよ」
ガッカリした顔になる。
それはそうだろう。
あれは、魔物がいてこそその効果を発揮するものだ。
魔物がいない村では、誰も欲しがりはしないだろう。
「仕方ないなあ。これを主力に取引するか」
ため息をついて「収納袋」から取り出したのは、トーレグの町で醸造される酒だった。
元々、冬は雪の多い地方のせいか、なかなか酒精が強い代物だ。
「四か月間、トーレグの町の人はどこにも行けなかったわけだし。少しは欲しがる人もいるだろう」
と言って、それを持って宿の主人のところに交渉に行ってしまった。
「まったく。よく、次から次へと商いのネタが出てくるもんだぜ」
オウルは半ばあきれて呟いた。
「それが商人というものなんだろう」
宿の主人が出した、煮込み料理が中心の夕食を口にしながらティンラッドは言った。
「なあ、オウル。この村には私たちの用はなさそうだな」
その通りだ、とオウルは思った。
魔王を探す、という目的を持つティンラッドが興味を持つものはこの村にはなさそうだし。
この村の方でも、彼ら三人に用などないだろう。
「ただ、ひとつ気になることがある」
オウルは腕を組んだ。
「あの親子が言っていたことか?」
ティンラッドは興味がなさそうだ。
「私はどうでもいいな。どちらにしても、私たちの目的地は決まっているわけだし。明日の朝にはこの村を出よう」
そう言ったきり、彼は食事に集中してしまい。
手早く食べ終わると、店の女の子を周りにはべらせ、シタールを奏で始めた。
演奏の腕は確かだし、見た目も渋く手足も長いので、女の子たちがキャアキャア騒ぐ。
ロハスはロハスで、店主と喧々諤々で値段交渉に忙しそうだ。
オウルは面白くもなく、ひとりで残った料理をつついた。
どうも、このパーティ。協調性に問題があるんじゃなかろうか。そんな気がしてたまらない。
「まあ、いいか」
呟いた。
魔王なんて、見つからないで済んでくれれば彼はその方がいいのである。
この前の洞窟での戦いのような目には、あまり遭いたくない。
そして、すぐに西の砦攻略が決まっている現実を思い出して、オウルはつくづく嫌気がさした。
このまま知らんぷりをして逃げ出してしまおうか。
一瞬そう思ったが。
何となく、すぐに見付かりそうな気がして、やる気がなくなった。
ロハスはやたらに目端が効くし、ティンラッドもカンがいい。
立ち上がった瞬間に、「どこに行く」と声をかけられそうだ。
だが。
いつか、のっぴきならない破目になる前に、絶対にこのパーティを抜けてやる。
そう改めて決心するオウルであった。