第6話:平穏な村 -1-
数日後。
「陸に上がった船長」「攻撃魔術の使えない魔術師」に、「ごうつくばりの商人」を加えた三人のパーティは、西に向かっていた。
この進路が決まったことには、いくつか理由がある。
まず、魔王を探すならソエル王国を出るべきだというオウルの主張に、ロハスが賛同した。
魔物の害は、この国の外の西方の国々の方が激しいという。
次に、国を出るなら海路はない、とティンラッドが断言した。
今、海は船を出せるような状態ではないという。
ティンラッドは多くを語らなかったが。
だから、彼は今陸にいるのだろうか、とオウルは思った。
加えて、トーレグの町民からの情報があった。
西の国境の砦は、三年ほど前から閉ざされているという。
魔物が完全に占拠してしまい、人間の通行を阻んでいるというのだ。
ロハスもその情報は確かだと言い、
「だからオレのいたパーティは、北西の砂漠を越える道を使ってこの国に来たんだよ。けど、砂漠越えはキツくてね。魔物も強かったし。それで、ずいぶん人を失ってさ。結局は、オレ一人がここへたどり着いたってわけ」
深いため息をついた。
しかし、そのパーティの積み荷と持ち金のほとんどは彼が持ち出した、という話を聞くと。
(コイツ、仲間を見捨てて、金と商品だけ持ってひとりで逃げたんじゃ?)
と、オウルはロハスに対しての疑念が湧き上がるのを抑えられないのだった。
それはともかく、その話を聞いてティンラッドは決断を下した。
まずは、西の国境の砦を目指し、そこを占拠している魔物というのに当たってみる。
組織的な行動をしているのだから、魔王そのものではなくてもそれにつながる可能性は高い、というのがその根拠だった。
確かにそのとおりである。
しかし。
そんな、魔王につながる具体的な手掛かりなんてなくても良かったのに。
ひそかにそう思う、オウルとロハスであった。
しかし、旅立つと決まったらロハスの行動は早い。
町長に話をし、例の「ヒカリゴケの収益金」の話を文書にしてもらい。
必要な物資を安く融通してもらい。
ついでに、近々西の村の親戚の家に身を寄せることに決めた町民の情報を聞き出し、そこまで自分たちも馬車に乗せて行ってもらえるよう話までつけてきた。
「もちろんタダで。おまけに歩くより楽だし、早い! いい考えでしょ」
得意げにロハスは言う。
確かに、その通りだ。
戦闘ではサッパリ役に立たないが、こういう場面では実にそつがない。
「損をしない」「少しでももうける」ということに、生き甲斐を感じているようだ。
町から出て行く人間は多かった。
降り続ける雪がおさまったと言っても、この冬を食糧難のまま越さなければいけないことには変わりはない。近隣の町や村に親戚がいる者は、しばらくそちらに身を寄せる算段を付け始めていた。
彼らが同乗を頼んだのは、その中でももっとも早く出発する家族で、西のシグレル村に妻の実家があるという若夫婦だった。
春に結婚したばかりで、すぐにこの災禍に遭った。
冬の間を妻の実家で過ごし、春になり農作業ができるようになればトーレグに戻る。
そういうつもりでいるそうだ。
「いやあ、すいませんねえ。男三人も乗っけていただいて」
ロハスは愛想よく二人に話しかける。
お前が強引にねじこんだくせに、とオウルは思ったが。
若夫婦は人がいいのか、人懐こい笑顔で応えた。
「いいんですよ。ついでですからね。俺たち、荷物も大してないし」
「町を救ってくださった方々のお役にたてるなら、こんな嬉しいことはないですよ。ねえ、あなた」
「いやホント、いい方々に出会えて良かった」
ニコニコと応対するロハスの頭には、多分そのおかげで浮いた運賃や、旅が長くなるための食糧代のことしかない。
この若夫婦、お人好しもほどほどにしないとこういう輩に骨までしゃぶられるぞ……と。
他人事ながら心配になってしまうオウルだった。