第5話:ロハスの商売 -6-
翌朝は、夜明けとともに出発し、午後遅くにトーレグの町にたどり着いた。
すかさず、ロハスは町長の館に行き、持ってきた食糧の分配について談判。
町の商業組合の顔役も呼ばれ、いろいろ話し合いがなされた結果。
町長が一括してその食糧を買い取り、商業組合が間に入って分配作業を行うことになった。
もちろん、町民全体に食料がいきわたるよう町長が監視した上でのことだ。
「ロハスさん。あなたには本当に世話になった」
町長は金を払いながら、何度も頭を下げた。
「ティンラッドさんもオウルさんも、我々のために命を懸けてくださって。本当にありがたい」
「あっはっは。いやいや、人として当然のことですよ」
ロハスは笑っているが。
オウルが心配したように、彼はトーレグの町長に高値を吹っ掛けたりこそしなかった。
しかし。損もしていない。
収穫の直後なので、城下町での食料の値段は安かった。
それをロハスはさらに値切った。
ヒカリゴケを売り払って得た額より、小さい金額で食糧を手に入れた。
そして、町長に払わせた値段はしっかり、仕入れの値段を上回っている。
何が、「困っている皆さんの助けになりたい」だ。
いかなる時も自分のもうけを取ることを忘れない。
それがロハスという男であると、オウルは確信した。
町長は、自分の館に泊まるよう彼らに懇願したが。
ロハスは慣れた宿屋の方がいいから、と丁重に固辞した。
もちろん、宿代は町長が持ってくれる。
多分、金勘定をゆっくりしたいからだろう、とオウルは思った。
宿に戻る前も、ロハスはしきりに町長たちに入れ知恵をしていた。
山のようにある雪を使って雪像作り大会を行い、旅人を呼び寄せて町に金を落とさせようとか。
ヒカリゴケのお守りは、一ゴル以下の値段では決して売らないようにとか。
それどころか、半年たったら三ゴルに値上げしろとまで言った。
「しかし急に値上げをしたら、買いに来る人が怒るのではありませんかな」
困惑する町長にロハスは、
「そんなことはありませんとも。貴重なものなので、乱獲できないのだと言ってやればいいんです。そうした方がね、余計価値が上がってみんなありがたがりますよ。本当は五ゴル取ってもいいと思いますが、さすがに上げ過ぎると客が離れますからねー。まあ、三ゴルくらいで様子を見た方がいいと思うんですよ」
などと言って、一人でしきりにうなずいている。
「本当に、いろいろわが町のために心を砕いていただいて」
町長は恐縮したように言った。
「何か、お礼が出来るといいのだが」
「いやあ。そんな。そんなことのためにやったんじゃないですよ。私は皆様の役に少しでも立てればと、ただそれだけの気持ちで」
ヘラヘラ笑いながら言うロハス。
その背中に、「建前」という文字が書いてあるようにオウルには思えた。
案の定、すぐにロハスはこんなことを言い始めた。
「そうですねえ。それでも気が咎めるとおっしゃるなら。そこまでおっしゃるなら、形だけということで。ヒカリゴケの収益なんですが。そこから少し、いただけないですかね。いや、ほんのちょっとでいいんです。そうですね、一分」
一分、つまり百分の一という申し出に、町長は目を丸くした。
「たったそれだけでよろしいんですか?」
「もちろんです。あくまで形だけのことですからね。商人組合の、私の口座に振り込んでいただければ。ホント、手の空いた時でいいですので」
「いや。必ず毎月振り込めるよう、よく言っておきましょう」
町長は力強く約束した。