第5話:ロハスの商売 -5-
結局、初めは半信半疑だった客たちも。
ロハスの巧みな煽り言葉と「今日だけの特別価格」「限定五十個」という文句に踊らされ、まず何人かがヒカリゴケのお守りを手に取り、金を払った。
すると、それが呼び水になったかのように。
たちまち、人々が屋台の前に列をなし。
小半時と経たないうちに、五十個のお守りは完売してしまった。
「売れるもんだな」
半ばあきれて、オウルはつぶやいた。ちなみに、ティンラッドはだいぶ前から屋台の横で寝ている。
「そりゃあ、売れるでしょ。モノがいいからねえ」
金を改めて勘定し直しながら、ロハスが言った。
ついでに、売っているオレが素晴らしいからね、と付け加える。
「にしても、五シルは取りすぎじゃあないか? 元手はタダじゃないかよ」
「分かってないね。いいモノはそれなりの価格で取引しないと。適正価格で取引する、これが商売のコツよ。本来の価値より遥かに安い値段で取引なんかしてごらんなさい、市場が崩壊するでしょう」
偉そうにロハスは講釈する。
ヒカリゴケのひとかけらが五シルという値段設定が、その適正価格とやらを大きく上回っているのではないか、というのがオウルの疑惑なのだが。
「ホントに分かってないねえ。このヒカリゴケは、これからのトーレグの町の人の生命線なんだから。オレたちが安売りなんかしたら、ダメでしょう」
分かっていない相手に説明するのは疲れる、という態度でロハスはため息をつく。
それから。
「それはともかく。魔術師さん、困るよ。なに、あのやる気のない演技」
急に、先ほどのオウルの仕事ぶりにケチをつけ始めた。
「あんなんじゃ、日当払えないよ! もうちょっとマジメにやってもらわないと」
「だったら俺じゃないやつに振れ。お前が無理やりやらせたんだろうが」
「そんなこと言ったって、しょうがないじゃん。船長さんはやってくれそうにないしさ」
その辺りは一応、相手を見ているらしい。
「さて、今度は仕入れだ」
ロハスは屋台を片付けると、立ち上がった。
大きな屋台すら、「何でも収納袋」に入ってしまうから、本当にこのアイテムはすごい、とオウルも感心した。戦闘にはほとんど役に立たないのが難点だが。
ロハスは寝ているティンラッドをゆすり起こして馬車に乗せ、そのまま下町に回った。
そこで、食料を買い付ける。主に買うのは野菜や果物、穀物の類だ。
ロハスがやたらに値切るので、買い付けには厭になるほど時間がかかった。
あまりヒマなので、待っている間やることもないオウルは古本屋を回って魔術書などを立ち読みしてきた。ティンラッドはほぼ寝ていた。
ロハスがすべての買い物を終えた頃には、もう日が沈み始めていた。
仕入れた大量の食糧も、「何でも収納袋」の中へ。
確かに、商売人にはたいそう便利なアイテムに違いない、とオウルはその日二度目の感心をした。
城下町で泊まるのかと思えば、そのまま町を出て荒野で野宿。
「だって。宿代がもったいないじゃないの」
というのが、ロハスの言い分だった。