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第5話:ロハスの商売 -2-

 しばらく歩いているうちに寒さははっきりと和らぎ、やがて洞窟の壁から水が滴り始めた。

「うわ。さすがにこりゃ、ダメだ」

 オウルは諦めて、襟巻と手袋を取る。コートの前も開けた。

 魔物に対する防御力は多少下がるが、雪嵐対策で何重にも重ね着した、そのままの恰好では暑くてゆだってしまいそうだ。

 ロハスもそれに倣った。

 ティンラッドはだいぶ前に、コートまで脱いでロハスの「何でも収納袋」に突っ込んでいる。


「この辺りだな」

 洞窟の地図を見ながら、ロハスが呟いた。

 その場所で、洞窟は直角に折れ曲がり、その先の勾配はいっそうきつくなっていた。

 足下に注意しながら下りきった、その先で。

 オウルもティンラッドも、思わず息をのんだ。

 

 魔物のいた広間に勝るとも劣らない広い空間。

 その全体が、ぼんやりと発光していた。

 それはまるで。

 晴れた夜空に浮かぶ、満天の星々のような。

 そんな美しさのある、荘厳な眺めだった。


「これは」

 オウルの呟きに、ロハスが答えた。

「ヒカリゴケさ」


「ヒカリゴケ?」

「そう。知らない?」

「いや、知ってるけどよ」

 その答えに、ロハスはふふん、と鼻で笑う。

「けどね。ここのは、特別製なんだ。オレの狙いはこれよ」


 そう言って広間に踏み込み、壁に近付く。

 懐から出した金属のへらで軽くこすってコケをはがす。それを、「何でも収納袋」から取り出した小さな瓶に入れ、蓋をした。

「はい。船長さん、着けてみな」

 ティンラッドに向けて差し出す。瓶には細い鎖が取り付けてあり、首にかけられるようになっていた。


「何だ、これは?」

「まあまあ。身に着けてみればわかるって」

 ロハスは、有無を言わせずそれをティンラッドの首にかける。

「魔術師さん。観相鏡で船長さんのステイタスを見てみろよ」


 わけがわからないながらも、オウルは好奇心に負けてロハスの言うとおりにした。

 そこに映ったものは。


ティンラッド

 しょくぎょう:せんちょう

 LV35

 つよさ:275

 すばやさ:330

 まりょく:88

 たいりょく:300

 うんのよさ:341

 そうび:かたな(しんげつ) かたな(こうげつ) ヒカリゴケのおまもり

 わざ:ひっさつ まざん・せいめいこうげつ


「うん? これは」

 オウルは眉を寄せて、前に見たティンラッドのステイタスを思い出す。

「レベルは上がってないのに、数値が上がってる?」

「そのとおり!」


 ロハスは我が意を得たり、という顔をした。

「このヒカリゴケを身に着けているとね。ステイタスの数値がすべて、一割上昇するのさ。おまけに、弱い魔物を追い払う、聖水と同じ効果もある。旅人にとっては喉から手が出るほど欲しいアイテムだと思わない?」


 オウルは唸り声を上げた。

 一割というのは。ステイタスの数値が低い人間には大した旨味はない。

 だが、レベルが高い人間ほど上り幅が大きくなる。そして、レベルは高くなればなるほど上がりにくくなるし、レベルが上がった時の各数値の上り幅も小さくなる。

 何もしなくても一割数値が上がるというのは、かなり便利なアイテムであることに間違いない。

 聖水も、その都度手に入れるのは意外に金がかかるし、地方の神殿ではとんでもないぼったくりの値段をつけられることもあるし。

 そう思うと、更に有益性はある。


「ほら。ここまで連れて来てくれた礼に、アンタたちにはタダでやるよ」

 ロハスはもう一つ、ヒカリゴケの首飾りを作ってオウルに差し出した。

「お、おう。ありがてえ」

 オウルは受け取って、自分の首にもかける。

 これで、彼自身のステイタスの数値も上がったはずだ。


「さあ! これをたっぷり採って、城下町で売りまくりますよ! で、そのお金で食料を買い付けて、町の人たちに売りつける! ああ、オレって何て賢くて博愛精神に満ちたイイ男なのかしら!」

 袋から出した大瓶に、はりきってコケを詰めまくっているロハスの姿は。


 悪いが、オウルの目にはとても「博愛精神に満ちた」男には見えなかった。

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