第1話:沈黙の鐘が鳴る -3-
船長だから、なんなのか。
さっぱり分からなかったが。
「まあ待て、ちょっと待て、ティンラッドさんよ」
オウルはあわてて言った。
「アンタが強いのは、よく分かった。冗談抜きで、アンタなら魔物に勝てる。けどよ、俺はダメだ。アンタ、魔力もあるようだから、これが使えるだろう。俺のステイタスを見てみろ。俺の名はオウルだ」
観相鏡を手渡す。そこにはこんなステイタスが映っているはずだ。
オウル
しょくぎょう:まじゅつし
LV18
つよさ:18
すばやさ:24
まりょく:201
たいりょく:21
うんのよさ:55
そうび:かんそうきょう げっけいじゅのつえ
いや、違う。幸運のステイタスは確実に下がってる。
この男と関わり合った瞬間に下がった。そんな気がする。
「いいか、分かるだろ。俺はとても、外に出て魔物と戦えるような人間じゃない。アンタが魔王を倒そうと世界を征服しようと自由だが、そんなことは一人でやってくれ。俺は関わり合いたくない」
逃れようともがく。
だが、彼の襟首をつかんだティンラッドの力は強かった。
「さっきも言ったろう。これは、君が言い出したことだ。男なら責任を取れ。君が弱かろうが強かろうが、そんなのは関係ない」
観相鏡を放ってよこす。見もしなかった。信じられない。
「よしてくれ。出まかせだって言ったろう。ほんの冗談のつもりだったんだよ」
「男なら冗談でも言ったことには責任を持つことだな。それにほら、今はそんなことを言っている場合ではなくなった」
ティンラッドが手を放す。
急に突き放されて、オウルはその場でたたらを踏んだ。
ティンラッドの目が鋭く辺りを見渡す。
オウルも気付いた。空気がいつもと違う。
ひりつくような緊張感が、辺りに立ち込めている。
危険を察知する嗅覚には、オウルは自信があった。
だからこそ、魔物が世界を跋扈する、こんな時代にも生き延びて来られたのだと思っている。
「魔物か」
声を低めて言った。ティンラッドが首を横に振る。
「違うな。人の気配だ」
オウルは眉をひそめた。
「盗賊団か」
そんな不逞の輩がいるらしいことは、噂に聞いていた。
地道に農地を耕作したり、商売をしたり。そうでなければ兵士になって町や国を魔物から守る。
そんな暮らしになじめない悪人どもが徒党を組んで、平穏に暮らしている人々を襲い、殺し、奪う。
魔物におびえて暮らしている人々を、更に人間が追い詰める。
「冗談だろ。王国だぜ。兵士の数も、そこらの町や村とは段違いだ。そんなところに襲撃をかけてくるなんて」
「その分、人も富も多い。兵士が来る前に獲物を奪って引き揚げる算段だろう」
ティンラッドは静かな声で言う。
「たまったもんじゃないな。俺はズラからせてもらうぜ」
気配を探りながら、オウルは後ずさる。
この下町なら、どんな路地でも彼は知っている。
うまく駆け抜ければ、忍び寄りつつある盗賊たちに出くわさずに逃げおおせるかもしれない、と思った。
「運が良ければ兵士の詰め所に駆け込んで、この事態を報せてやるよ。それが俺に出来るせいぜいだ」
「何を言っている」
ティンラッドは言った。
「君は私の活躍を見届ける役だ! それに決まっているだろう」
そういうと同時に、彼は通りへひらりと飛び出した。