第4話:氷の洞窟 -16-
魔力が嵐のように洞窟内を吹き荒れた。
オウルは思わずかがみこみ、飛んでくる氷の欠片と魔力の渦から自分を守る。
それがようやく収まった時。
洞窟の中は、不思議なほど静まり返っていた。
オウルは恐る恐る顔を上げて、辺りを見回した。
魔力の気配がなくなっている。
まだ時折、パラパラと氷壁が崩れる音はするが、もう巨人が暴れ回る轟音もしなかった。
「おい。君たち、まだ生きているか」
ティンラッドの声がした。
氷柱の残骸の間を、長身の影が歩き回っている。
「船長。ここだ」
オウルは片手を上げた。
ついでに、足元を見る。ロハスはまだうずくまったまま、しきりにお祈りを唱えている。
「ごうつく商人も、生きてるぜ」
ティンラッドはずかずかと二人の方へやってきた。
「無事でよかった。ところで、魔物が消えたぞ」
簡潔に言う。オウルは眉をひそめた。
「消えた?」
「ああ。消えた」
ティンラッドはうなずいた。
「氷の欠片が山となって壁際に積み重なっているが、もう動かない。魔力も感じないな。それは、消えたとしか言いようがないだろう」
「確かに、もう魔力は感じねえな」
オウルも首肯した。
確かに、この場所に満ちていた魔の気配は雲散霧消している。
「つまり……何だ。魔物退治は、終わったってことか?」
「残念ながらな」
ティンラッドは不満そうに言った。
「中途半端だ。私は暴れたりないぞ」
あれだけ切ったはったすれば充分だろ、とオウルは思ったが。
面倒くさいので口には出さなかった。
代わりに、脚を伸ばしてロハスの尻を蹴りつける。
「おい、アンタ。終わったってよ」
「え?」
ロハスはようやく顔を上げて、自分を見下ろしている二人を見た。
「終わった、って言った?」
「言った。とりあえず、あの魔物はいなくなった」
「生きてる!! 神様!」
ロハスは叫んだ。
「オレ、心を入れ替えて信心します。神殿に寄進もします。ありがとうございました!」
しきりに唱えているが、聖句が何もかも間違っている。
これは、ロハスの信心の有効期限も大してなさそうだな、とオウルは思った。
それから三人は、巨人だったものの残骸を確認しに行った。
ティンラッドの言うとおり、洞窟の奥には崩れた氷が山になって積み重なっているだけだった。
それは、剥がれ落ちて砕けた氷壁と一緒になり、どこまでが巨人だったものかもう区別がつけられなかった。
巨人は、落ちてきた氷の壁に砕かれて、再生もできないほど傷付いてしまったのか。
それとも、動かなくなったのには他の理由があるのか。
今となっては、調べる術もなかった。魔力の残り滓ほども、その氷には残ってはいなかった。
「行こう。これ以上ここにいても何も得られなさそうだ」
ティンラッドが言い、ロハスもうなずく。オウルは崩れた土壁にちらりと目をやったが、何も言わなかった。