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第4話:氷の洞窟 -15-

 巨体が氷の壁に体当たりすると、地響きが起こり、広間全体が震えた。

 厚い氷にひびが入っていく。またしても氷柱が天井から落ち、床に当たって砕けた。


「うわ、こりゃひどい」

 オウルは呟いて、壁のくぼみの中で身を縮こまらせる。

 足元では先ほどから、ロハスがひっきりなしにあやしげな祈りの言葉を唱え続けていた。

 巨人はこちらに向かってこなくなったが、代わりに今度は落盤の危険性が出てきた。

 あの怪力で、この広間自体の天井が崩れたら。

 彼ら三人は押しつぶされて一巻の終わりだろう。


 かといって、この間に逃げ出すというのもうまくない。

 頭上からは、巨大な氷柱が間断なく降り注いでいる。

 あれに体を貫かれることなく、このくぼみに逃げ込めたのは全くの僥倖だった。

 そして、幸運はそう長く続くものではない。

 この場所から無闇に飛び出せば、待っているのは上から落ちてくる巨大な凶器による無残な死だろう。

 

 逃げても死、逃げなくても死。

(こりゃあ、詰んだか)

 オウルは思う。

 ティンラッドに無理やり旅に引きずり出された時から、短い人生と覚悟はしていたが。

 それにしても、あんまり早すぎると思う。

 しかも、岩盤に押しつぶされるにしても、氷柱に刺し貫かれるにしても、死に様が悪い。

 同じ死ぬにしても、もう少しマシな死を迎えたい。


 魔力が乱れていた。

 この場所でのもっとも大きな魔力の源は、言うまでもなくあの氷の巨人である。

 それが、外の雪嵐のように荒れ狂っている。巨人はそれを統御できずに苦しみ、暴れているのだろう。

 原因は……やはり、あれだろうか。

 オウルは巨人の、いびつに再生した頭部を眺める。


 ティンラッドが砕き、そこに湯をかけたことで、再生は中途半端に終わった。

 頭部と言っても、粉砕されても平然としていたくらいだから、あれで何かを考えたりしているわけではないのだろう。

 だが、実際に今、巨人の行動はおかしくなっている。

 すると、即座に再生すれば問題はない、だが継続的な損傷は支障が出る。そういうものが、あの部分にあったということだろう。

 それは確実に、魔力を統御するための何かだ。


 魔術師としては興味がある。

 なぜ、この世界に突然魔物が出現したのか。

 動物が魔物化したらしいものはまだしも、そうでない、この巨人のような魔物はどんな理屈で動いているのか。

 まだ、解き明かされてはいないのだ。


 もっとも、それも命あっての物種。今は、いかにこの場を生き延びるか、その方が重要だ。

 オウルは必死で目を凝らした。

 何か、この場を切り抜けるためのきっかけになることがあれば。

 今はただ、それを探すしかない。


 その時、ひときわ大きな音がした。

 耳をつんざく、雷鳴のような轟音だった。

 見ると、巨人が何度も殴りつけた氷壁に大きくひびが入り、その一部が剥落していた。

 天井からは氷柱が雨のように落ちては、地に当たって砕け散る。

 鋭い刃のような氷が飛んできて、雪グマの厚い毛皮をも切り裂いた。


 その中で、オウルは見たような気がした。

 氷がなくなった洞窟の壁。そこに、何か巨大なものが描かれている。


 地層の模様などではない。

 赤と黒の染料を使って描かれた、確実に人間の手になる何らかの紋様。

 規則的で、一画一画に意味がある、それは。

(魔法陣……?)


 もっとよく見ようと、目を細める。

 その瞬間、氷の巨人がひときわ強く、壁に向かって体をぶつけた。

 洞窟全体がぐらぐらと揺れた。厚い氷がいっそうはがれだし、氷柱は降りしきり、土壁にもひびが入って魔法陣と見えたものが崩れ落ちた。


 氷が嵐のように渦を巻いて、何も見えなくなった。 

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