第4話:氷の洞窟 -13-
回復しないわけではないだろう。頭を粉砕されても、すぐさま回復する魔物だ。
ただ、おそらく。切ったり砕いたりされるのに比べ、「溶かされた」部分は復元に時間がかかるのだ。
傷口が膿んだようなものか、とティンラッドはイメージする。
じくじくと黄色い汁を垂れ流す傷口は、通常のものに比べて何倍も治癒が遅い。
そういうものだろう、と見当をつける。
「君たち。それをこっちにもよこせ」
湯を沸かしているオウルとロハスの下にたどり着くと、彼は早口に言った。
「なるべくたくさんがいい。壺か何かあるか」
「壺ならいろいろ」
言いながら収納袋に手を突っ込みかけて、ロハスは急に疑い深そうな目でティンラッドを見た。
「船長さん。壺、何に使うの?」
「アイツにぶつける」
何を言っているのか、という口調でティンラッドは答えた。
しゃべっている時間はないのだ。イライラする。
ロハスはため息をついた。
「じゃあ、安いヤツにしとく。大きいヤツだね?」
「ああ。その鍋の湯が全部入るようなものが欲しい」
注文通りに出てくるのがロハスのいいところである。
ティンラッドは二人に、その壺に湯を注ぐよう命じた。
「背負子か何か要るかい?」
ロハスが親切に声をかけてくる。ティンラッドは頼む、と言った。
たっぷりの熱湯が入った壺を背中に担ぐと、彼はまたひらりと魔物に向かってかけていった。
「俺たちの方は、足場崩しを続けろってことだけど」
氷の欠片をまたかき集めながら、オウルは言った。
「お前な。もうちょっとマシな壺はなかったのか」
「いいじゃない、あれで。どうせ壊すんでしょ。ああ、もったいない」
「もったいないのも物によるよ」
そう言ってオウルは、遠ざかっていくティンラッドの背中を見た。
不格好な壺だった。大きさだけは大きいが、素焼きで、形がゆがんでいる。
そこには、粘土の欠片をはりつけたようなおかしな顔がついていた。
笑っているようにも、泣いているようにも見える奇妙な顔だ。
ひどく滑稽で、この状況にまったくそぐわない。
「とある町の商売人のおじさんがさ。趣味で壺を作ってたそうなんだけど、これがまあ、腕が悪くてね。亡くなった後、あんな壺が山ほど残って、家族が困っててさ。そこをこのオレが、一括で買い取ってあげたわけですよ。こんなこともあろうかと思って」
「どうせ、代わりに何かの利権と引き換えにしたんだろ」
オウルは呟く。
「しかし、これ。何かの役に立っているのかなあ?」
新しい湯を竹筒につけた漏斗に注ぎ込みながら、ロハスが言う。
「さあね。船長がやれって言うんだから、全く無意味じゃないんじゃないか?」
オウルは投げやりに答える。
自分で始めたことながら、それほどの効果は上がっているように見えない、と思う彼であったが。
何かやっていれば、少なくとも恐慌に取りつかれることだけはない。
「さ、次だ次。また氷を集めるぞ」
と彼は言った。