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第4話:氷の洞窟 -10-

 その間も、ティンラッドは戦い続けている。氷柱の間を走り抜け、身軽に刀を振るう。

 氷の砕かれる音が続けざまに洞窟に響き渡る。

 だが。


 巨人が身を震わせる。魔力が集まる。

 冷気が一段と強くなる。

 そうすると、皓月で切り裂かれた巨人の体は、また元通りに再生するのだ。

「ふん。我慢比べというわけか」

 ティンラッドの顔にいら立ちが走る。

「面白くないな! 他に芸はないのか!」


 巨人が左腕を突きだす。不格好な太い指が、ティンラッドをつかもうと伸びてくる。

 その手の上に、ティンラッドはひらりと飛び乗った。

 そのまま、ごつごつとした氷の腕を肩に向かって駆け上がる。

 巨人が体を動かす。

 右腕を振り上げ、ティンラッドを叩き潰そうと振り下ろす。

 

 ティンラッドは跳んだ。一拍遅れて、巨人の手が自らの腕に激突する。

 氷の欠片が飛んで、ティンラッドの頬に傷を作った。

 巨人の肩に着地したティンラッドは、すかさず皓月を構える。


「魔斬――――」

 体内の魔力を集める。白く輝く刀身に、それを叩きこむ。

 皓月の刃が、明々と輝いた。


「清明皓月!!」


 魔力によって増幅された斬撃が、スキル「必殺」と相まって強烈な威力を発揮する。

 ティンラッドの奥義である。

 皓月の一撃は、巨人の頭を跡形もなく粉砕した。


「や、やった?」

 その様子を。離れた場所から見ていたロハスとオウルは、息をのむ。

「やっつけたのか?」


 だが。ティンラッドは眉をひそめた。

 まだ、巨人の体に凝る魔力の流れは、止まらない。


 素早く身をひるがえし、巨人の体を滑り降りる。

 氷の広間は、いっそう冷気に包まれていく。

 やがて。

 ぴきぴき、みしみしと音を立てながら。

 巨人の頭が再生した。

「ふん。しつこいな」

 面白くなさそうにティンラッドは呟いた。


「頭をやってもダメなのかよ」

 ロハスは自分の頭を抱えた。

「こりゃ、ダメだ。ここで死ぬのはイヤだよお」

 オウルは眉間にしわを寄せながら、観相鏡の数値をにらんでいる。

 回復するたびに巨人は魔力を消費しているが、それはさほど大きな数値ではない。

 すべての魔力を消費し尽くすまでには、何十回でも回復することが可能だろう。

 状況は、思った以上に悪い。

 先ほどティンラッドが放った技は、おそらく決め技のはずだ。

 それでも敵わないとなると……。

「ん?」

 オウルはさらに眉をしかめる。

 魔力の動きがおかしい。巨人は、回復した時よりさらに多くの魔力を身内に集めている。

「気を付けろ、アイツ何かやるぞ!!」

 オウルは叫んだ。

 ロハスはひいっと言って、また頭を抱えてしゃがみこんだ。


 巨人の再生した頭が下を向く。

 そこには、目のようなくぼみしかないはずだが。

 存在しない口が開いたように。その辺りから、強烈な冷気が人間たちに向けて吹き付けられた。

 雪グマの毛皮に、みるみるうちに霜がついていく。

 懐に忍ばせた魔力のカイロも、その力を喪ったように感じられる。

 吹き付ける冷気は、刃物のようにむき出しの顔を切り苛んだ。


「凍る! 生きながら、凍らせられちまう」

 ロハスがうめいた。

「ばか、しゃべるな!」

 雪ぎつねの襟巻で顔を覆いながら、オウルは叱咤した。

「肺の中から凍っちまうぞ! アイツの方を向くな!」

 

 その時。

 からからと、笑い声がした。

 オウルとロハスは。驚いて顔を上げる。

 氷柱の間で、ティンラッドが笑っていた。


「それがお前の攻撃か? 大したことはないな! この洞窟へ来るまでの雪嵐の方が厄介だったぞ」

 快活な顔が、二人の方を見る。

「なあ、オウル、ロハス。あっちこっちから風が吹き付けて、ひどく難儀したな。あれに比べたら、一方しか来ない冷気など何でもないだろう」

 いつもの顔で、笑う。

 オウルは目を見開いた。


 気温は多分。外よりも下がっているのだ。

 おそらく、この氷の広間の中は人間が動くのも辛いほどに温度が下がっている。

 だが、ティンラッドの言うことにも一理あった。

 猛吹雪で、絶え間ない強風にさらされ続けた場合。体感温度は、実際の気温よりかなり低くなる。

 あの嵐の中を半日歩き続けたことに比べれば。

 今の状態など、まだまだしのげる。

 少なくとも、ティンラッドは諦めていない。

 諦めてなど、全くいないのだ。


「じゃ。オレはこの辺でズラかるわ。後は二人で死んでくれ」

 ティンラッドの言葉で、こちらもいくらか元気が出たらしいロハスが。

 変な方向にその気力を使い、広間の出口に走ろうとするのを。

 オウルは後ろから、毛皮のコートをつかんで引きとめた。


「離せよ。オレはこんなところでお陀仏になるのはゴメンなんだって」

 暴れるロハスを、抑えつける。

「待て。まだ俺たちにも出来ることがある」

 オウルは低い声でロハスを脅しつけた。

「俺一人じゃ手が足りない、手伝え。それでも逃げるようなら、魔術で二度と女が抱けない体にしてやるからな」

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