第4話:氷の洞窟 -8-
その道は少し下り坂になっていた。
少しずつ暗くなっていく道を、三人は慎重に進んでいく。
進めば進むほど、冷気が強くなっているようだった。足元にも氷が張っていることがあり、気をつけて足を踏み出さないと滑った。
濃くなった闇の中で、オウルの杖先に灯った魔力の光も弱々しく見える。
誰ともなく、言葉少なになっていた。
この道の先に、大きな魔力の波動がある。それは、確実に強くなっている。
魔術師であるオウルには、それが手に取るように感じられる。ティンラッドとロハスも、少ないとはいえ魔力持ちだ。そのことを肌で感じているのだろう。
じりじりと、緊張感だけが高まる。どこまで続くのか分からない道を、ただ下りていく。
そして、突然目の前が開けた。
「何だ、ここは」
オウルは思わずつぶやいた。
洞窟はその場所で、大きく広がっていた。
壁面も足元も、厚い氷で覆われている。杖を掲げると、見上げるほど高い天井からは無数の氷柱が長く垂れ下がっているようだった。
広間の中央には、大きな氷の塊がある。
そのせいか、中はひどく寒かった。
「帰ろう。今すぐ帰ろう」
ロハスが言った。
「寒いし冷たいし。何にもないじゃん。帰ろう」
繰り返し、主張する。
しかし、ティンラッドは口許を吊り上げてニヤッと笑うと。
「なぜ、戻る必要がある。いるぞ、ここに。感じないか。魔力が集まっている」
オウルは感じていた。巨大な魔力が、この場所の中で渦巻き、一か所に集まりつつあった。
その流れの先は。
オウルは、観相鏡を取り出し、鼻の上に乗せる。
「来るぞ。気をつけろ」
ティンラッドが嬉しそうに言った。
氷の塊が、動き始めていた。
塊が、ほぐれる。巨木の幹くらいもある長い腕が伸び、氷の壁を叩く。洞窟全体が揺れ、氷のかけらがパラパラと降ってきた。
もう一本、腕が伸びる。そして。
塊は、立ち上がった。
それは、人型だった。
といっても、人間そっくりだという意味ではない。
むしろ、人間にはあまり似ていなかった。
小さな子供が粘土でこねあげたような、醜悪でいびつな人型。
だが、巨大だった。
長身なティンラッドの、三倍は背丈があるだろうか。
そして、長く太い二本の腕と、同じく太く重量感のある二本の脚。
頭らしきところに、顔はない。
かろうじて、目のあたりにくぼみが二つあった。
瞳はない。だが。
その目が、氷の冷たさで彼らを見た。
そう、感じた。
「おい。君は、魔王か」
ティンラッドが。いきなり、大音声を上げる。
その声は、氷の壁や天井にぶつかり、反響して、こだまする。
その問いかけが、ひどく滑稽にオウルには感じられた。
だが、ティンラッドは大真面目である。
「聞いているんだ。返事をしなさい。君は魔王なのか?」
返事はなかった。
氷の巨人は無言で腕を振り上げ。
ティンラッドに向かって、振り下ろした。