第1話:沈黙の鐘が鳴る -2-
そこで、オウルは信じがたいものを見た。
オウルの口から出まかせに、怯えた表情を浮かべるはずの音楽師が。
口許に不敵な笑みを浮かべ、考え込むように首を傾げていた。
「世界をめぐって、魔王を倒す。それが私の運命か。本当か?」
なぜだか、オウルは気圧された。
目の前の男はただの軽薄な音楽師。そのはずなのに。
威圧される。その笑みには王者の風格すら、あるように思える。
いや、とオウルはかぶりを振った。そんなわけはない。
第一、オウルは王様になんか会ったことはない。
祭りの時に、人ごみの向こうに遠くから見たことがあるだけだ。
「バカ。冗談に決まってるだろ。出まかせだよ、出まかせ。失せな」
そう言って、身をひるがえす。
これ以上、男と関わり合いになりたくなかった。
「出まかせか」
男は、さほどガッカリした様子もなくつぶやいた。
「だが、気に入った。成程、そういう生き方もあるな!」
「は?」
思わずオウルは振り返ってしまった。それが、運の尽き。
「よし、私は魔王を倒す旅に出るぞ。君もついて来い。君が言い出したことだ、見届ける義務があるだろう」
「はあ!?」
異議を唱える暇もなく、首根っこをつかまえられる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。からかって悪かったよ。悪気じゃなかったんだ。冗談はやめてくれ」
「私は冗談は嫌いだ」
返ってくるのは、無情な一言。
「私の名はティンラッド。職業は船長だ」
「はい?」
オウルは目を丸くして、思わず男を見てしまう。
この内陸で、船長?
懐に手を入れて、商売道具の一つ「観相鏡」を取り出す。
メガネの形のこれは、人や魔物の「ステイタス」を自在に見ることが出来る。
その人間に使えるだけの「魔力」があればの話だが。
この世に蔓延した魔物たちには、それぞれ「ステイタス」がある。
それを見抜き、弱点を突くことが出来れば、人間にも魔物を倒すことが出来るのだ。
そのため、観相が出来るものは重宝される。人間同士でも、この方法で強さをある程度測ることが出来る。ただし、人間の観相をするためには相手の「名前」が必要だ。
必要な名は得た。オウルは素早く観相鏡をかけ、相手のステイタスを見てとる。
ティンラッド
しょくぎょう:せんちょう
Lv35
つよさ:250
すばやさ:300
まりょく:80
たいりょく:282
うんのよさ:310
そうび:わたりどりのシタール
「うわ。何だ、これ」
思わずつぶやく。
この辺りの魔物の平均的な強さは百以下。
とりわけ強いものでも、二百を超えることはない。
それなのに、人間の身でこの数値。
「ありえない。アンタ、何者だ」
オウルはうめいた。
「ん? 言っただろう?」
ティンラッドは高らかに笑った。
「私は、船長だ!」