第4話:氷の洞窟 -7-
その後は、白ヘビ(毒あり)、目無しトカゲ(同じく)などがちょこちょこ襲っては来たものの。
さほど強い魔物でもなく、聖水の効果だけで逃げていく有様のところをオウルがティンラッドに頼んで、数匹つかまえてもらった。
「ヤダよ! そんな気味悪いモノ、オレの大事な家宝の袋に入れられないって!」
白ヘビの死骸を「何でも収納袋」に入れろ、と言ったオウルに、ロハスは頑強に抵抗した。
「こいつは、いい毒消しの材料になるんだよ。売ってるものよりいいものが、タダで出来る。アンタ、タダが好きだろ」
「うむう」
ロハスはかなり葛藤している様子だったが。
結局、「タダ」という言葉に負け、おとなしく白ヘビを袋に収納した。
「ところで、どうする」
洞窟の先は、三つに分かれている。
「うーん。地図だと、左なんだけどねえ。オレの目的地は」
ロハスが、懐から紙を出して呟いた。
何、とオウルが眉を吊り上げる。
「何だコイツ! 俺たちに内緒で、洞窟の地図なんか持ってやがる!」
ロハスはしまった、と舌打ちした。
「いいじゃん、どうせ一緒なんだし。やはり、商売ネタの情報は自分で押さえていないとねえ」
「いいや、良くない。良くないぞ。これは重大な背信行為だ」
オウルがロハスに食って掛かるのを尻目に。ティンラッドは悠然と歩き始めた。
「船長? おい、待てよ。まずこの野郎にヤキを入れないと」
「船長さん? そっちじゃないよ、オレが行きたいの」
二人が同時に、声をかける。
ティンラッドは振り返り。
嬉しそうに、笑った。
「こっちだ。魔物の気配が強い。魔物退治に来たんだ、強い魔物を倒さないとな」
後ろの二人の顔からは一気に血の気が引いた。
「いや、待て。待てって船長。何も、自分から危険を求めに行かなくても」
「そうそう。オレは商売のネタすら確保できれば、それでいいんだから」
「何を言ってる」
ティンラッドは不思議そうに首をかしげた。
「私たちは、この洞窟に巣食う魔物を倒しに来たんだろう。そうじゃないのか?」
そう言われると。
二人とも、反論できない。
確かに、そのとおり。
オウルはあきらめて、歩き始めた。後は運と、ティンラッドの戦いのスキルに全てを委ねるしかない。
しばらく歩いて、彼は振り返った。
ロハスはまだ、さっきの場所に立ち止っている。
「おい。来いよ」
すっかり怖気づいたのか、ロハスは返事をしない。
オウルはもう一度、口を開いた。
「ここで一人でいたいなら、それでもいいけどな。何が襲ってきても、俺たちは知らんぞ」
その言葉に。
ロハスははじかれたように飛び上がり、あわてて二人の後を追ってきた。
「ああ。オレ、すごく失敗した気がする。人生の選択を」
しきりに呟いているのを聞いて、オウルは。
今頃気付いたか、と思った。