第4話:氷の洞窟 -5-
数時間後。
ようやく洞窟の中に入り込むことに成功したオウルとロハスは、疲れ切ってその場に座り込んだ。
足元も、壁もじめじめしているが、今ばかりは気にならない。
やっと綱が解かれて他の二人から自由になったティンラッドは、一人で中を歩き回っている。
「今、何時だ?」
「さあ。お昼は過ぎてると思うよ」
平時なら十五分だった距離を進むのに、半日かかった。それだけ嵐は強烈だった。
「でもホラ。オレの言ったとおりだったでしょ。ちゃんと抜けられるじゃない」
「抜かせ。無茶させやがって」
オウルは不機嫌に言う。
ロハスは口をとがらせた。
「いいじゃん、結局オレも来てるんだから」
「当たり前だ。この点だけは船長が正しい。言いだしっぺなんだから、責任くらい取れ」
そのティンラッドは、しばらく先まで行ってスタスタとまた戻ってきた。
「おい、君たち。いつまでへたりこんでいる? さっさと進まないと、日暮れまでに小屋に戻れないぞ」
なんでそんなに元気なんだ。
オウルはその言葉を聞いただけでげんなりした。
「待て。船長、とにかくいったん休もう」
「そうそう。中にどんな魔物がいるか分からないんだから、体力の回復をはかっておかないと」
ロハスが調子を合わせる。
オウルは初めて、コイツがついて来ていて良かったと思った。
「ほら、お昼にしよう。食べて食べて」
例の「何でも収納袋」から、一食分の食料や酒の瓶を取り出す。
それを見て、ティンラッドも腰を下ろした。
「こんなところで食べるのはイヤだな。辛気臭い」
「ご不満だったら、外で食べてきたらどうですか」
オウルは辛辣に呟く。
ティンラッドはいつも通り気にしない様子で、むしゃむしゃと食料を食べ始めた。
「ほら。魔術師さん」
ロハスが、魔力回復のポーションを差し出す。
オウルはそれを見て、厭な顔をした。
「それ、苦手なんだよなあ。回復ったって、本当に回復するには十分に休養をとらないとムリなんだよ。そのポーションは結局、体に残ってる魔力を無理やり集めてその場しのぎをするだけだから、飲むと後で疲れがひどいんだよ」
「飲まなくても平気ならいいんだけどさあ」
疑うような目つきをしながら、ロハスは言う。
オウルは黙り込んだ。
小屋からここまで、絶え間なく雪除けや寒さ除けの呪文をかけ続けて、魔力量はベストの状態の半分程度まで減っていた。
「後のことを考えるのもいいけど。まず、ここから生きて帰れなくちゃ、意味がないよね?」
金の亡者のくせに、聞いたようなことを言いやがって。
オウルはかなりイラッとした。
その上、後でしんどい思いをするのはオウルだけである。
まことに面白くない。
しかし、ロハスが言うのは正論だった。
オウルは仕方なく手を伸ばしてポーションをとり、その液体をのどに流し込んだ。