第4話:氷の洞窟 -4-
その晩は、小屋の床でそれぞれ寝袋と毛布にくるまり、ゆっくりと休んだ。
翌日は、洞窟を目指すことになる。
「十五分くらいの距離らしいんだけどねえ」
ロハスは浮かない表情で言った。
小屋の窓から外をのぞいてみても、雪嵐がひどすぎて視界はほとんどゼロである。
四方八方から雪は吹き付けるだろうし、まっすぐ前に歩くだけでも難事業であるに違いない。
「まあ、ここまで来たんだから着けるだろう」
ティンラッドは今回ものん気な口調で言った。
オウルは全員に寒さ除けと雪除けの呪文をかけながら、これも気休め程度だな、と思った。
雪グマのコートでも、防ぎきれないほどの冷気が押し寄せてくる。
出かける前に、酒を腹に入れて少しでも中から体を温める。
はぐれないように、三人の体を縄でつないだ。
こうすると、魔物に会った時に困ったことになるのだが。
「なに、この雪じゃあ魔物も出て来られないさ」
ティンラッドは軽く言った。
(どうせ、根拠はないんだろうが)
少しは気が軽くなるな、とオウルは思った。
それに確かに、前日は雪がひどくなるほどに魔物の出現率は減っていった。
そう思うと、少しは根拠があると言えるのかもしれない。
ティンラッドを先頭に、オウルが真ん中、ロハスが最後になって、一列に進む。
オウルは地図と魔磁針を用意し、一足ごとにそれを確認するつもりでいた。
しかし、一歩目を踏み出そうとした時、いきなりすごい勢いで前のティンラッドに引っ張られ、前のめりに転んだ。
更に、それに引っ張られたロハスが倒れて、上にのしかかってくる。
「い、痛い! 重い! 冷たい、どけえ!」
雪の中に押し込まれながら、オウルはわめいた。
「だってさあ、魔術師さんが引っ張るから。不可抗力だよ」
「俺じゃねえ! 俺も引っ張られたんだよ」
「まったく。何をやってる」
ティンラッドの声がしたかと思うと、乱暴に背中をつかまれ、雪から引き抜かれた。
「オウル。一歩目からこれでは先が思いやられるじゃないか。ちゃんと歩きなさい」
説教され。
「アンタだ、アンタ! 船長が引っ張りすぎるから転んだんだよ! 後ろに二人くっついてるんだ、少しは考えて歩けよな」
オウルはキレた。
「私は普通に歩いただけだぞ。ついてこられない君たちが悪い」
しかし。ティンラッドはどこ吹く風である。
「ふざけんな。あんな大股に歩かれて、ついて行けるわけがないだろう」
「さっさと歩かないと凍えるじゃないか。走っていくぞ」
「ああ、もうアンタ、俺の話聞いてないのかよ?! 方角を確かめながら歩かないと迷うから、一歩一歩慎重に行くぞ、って昨日打ち合わせたじゃないか」
「知らんな。聞いてない」
「魔術師さん。この人、その話の時にはもう寝てたよ」
妙に冷静にロハスが突っ込んでくるのが余計に腹が立つ。
というわけで、雪嵐という難敵を前に、三人の足並みがそろうまでしばしの時間がかかった。