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最強船長、陸にあがって大暴れ  作者: 宮澤花
大神殿への道
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第34話:うちの姉ちゃん -6-

 必要な物資を『神の秤』商会で手に入れ、ロハスはハールーンを連れて姉の家に戻った。仕事を終えた義兄も一緒だ。商談に時間がたっぷりかかったので、外はもう暗くなっていた。

「お帰りなさい、あなた。かまどがとってもいい調子になったのよ」

「おとうさま、おやねのまどがね、とってもあかるいの! あかとかきいろとかきれいなの!」

 帰宅した義兄に妻子が群がって嬉しそうに様々な報告をする。


 それを横で聞きながら、あーオウル頑張ったんだなーとロハスは思った。

 何事にも真面目に取り組みすぎてしまう便利な仲間は、今頃不機嫌最高潮であるに違いない。自分ばかりが損をするといつも愚痴を言っているのだ。

 文句言うなら適度に手を抜けばいいのに、とロハスは内心思っているのだが、性分でそれが出来ないのだろう。オウルって自分からハズレくじを引きに行ってるんだよなあ、と苦笑いした。


 くだんの魔術師は、暖炉の前の居心地のいい椅子でぐったりしていた。

「あーっ、そこは僕の場所だよ! どいてオウル」

 ハールーンが突進してオウルを椅子から押しのけようとするが、相手も負けてはいない。

「何でお前の場所って決まってるんだよ、知るかそんなこと。俺は一日労働して疲れてるんだ。休ませてもらう権利はあるはずだ」

「僕だって働いたよ。ロハスのお姉さんの用事に付き合ったし、今だって買い物に行って来たし」


「こっちは屋根に上って天窓の掃除をしたんだぞ。一人でだ。その上、かまどの修理が面倒で呪文の調整に頭が痛くなったし、風呂場のカビは頑固でちっとも取れねえしさんざんだ。俺はもう、今日はここから動かねえからな」

「ずるい。そこが一番気持ちいいんだよ、代わってよ」

「ずるいのはお前だ、いつもいつも一番いい場所を独占しやがって。たまには人に譲れ」


 子供の喧嘩である。ロハスはため息をついて居間をぐるりと見渡す。

「船長とアベルは? まだ帰ってこないの?」

「夕方にアンガス氏が酩酊状態の二人を引っ張ってここまで来たが」

 バルガスが不愛想に答える。

「君の姉上が、酔っ払いが目に触れるとご息女の教育に悪いと言って納屋に叩き込んでしまった。そこで寝ているのではないかね」


 ロハスは後で納屋に毛布を持って行こうと思った。冬も終わりが近付いているが、まだ夜は寒いのだ。凍え死になどされても困る。


「それにしても……そんなにぐでんぐでんだったの、船長とアベル」

「泥酔状態だったな。明日の朝まで起きて来ないだろう」

「そうなんだ。困ったなあ」

 ロハスは前髪をかき上げ、市場で起こったことを話した。


 バルガスは黙って聞いた後、その包みを見せろと要求した。

 汚いから持っていたくないとハールーンが主張したので、包みはロハスが預かっている。それを取り出して渡すと、バルガスは八方から眺めた後で無造作に油紙をはずした。

「あっ、いいの? 勝手にそんなことして」

「かまわないだろう。これはその男が持ち歩くために使っただけの物だ」


 中にあったのは、手のひらに載るほどの小箱だった。外側には濃いえんじ色の高価そうな布が張られ、複雑な意匠を象ったつやつやした金属で縁取られている。

 一見して値が張りそうな代物だった。

「……呪われたりはしていないようだ」

 バルガスは隅々まで確認してからそう言った。


「立派なものだね。三シルから五シルってところかな」

 すぐさま値踏みをするロハス。

「僕なら適当な由来をでっちあげて、一ゴルふっかけるけど」

 即座にぼったくることを考えるハールーン。

「何にしろ、あのクサレ神官の持ち物には似合わねえな」

 オウルも暖炉の前の椅子で半分身を起こし、そう言って首をかしげる。


「やっぱり人違いなのかなあ」

 ロハスは弱気になった。

「さあな。もっとも神殿を追い出されたなんて、いかにもあいつに似合いそうな話だが。そもそもあんな奴に重大な使命なんか任せようとするか? 俺だったら絶対にやらねえ」

 そう言ってオウルはまた椅子に深く身を沈める。


「それはそうなんだけどね。追い出されたってことを誤魔化そうとして嘘をつくくらい、アベルならやりそうではあるし」

 ロハスもうなずくが、預かってしまった責任を感じ何となく落ち着かない。


「君たち個々人のアベル君への評価は、彼の人徳というものだと思うが」

 バルガスが小箱をロハスにつき返しながら冷たく言った。

「彼が特殊な神言を身に着けているのは事実だということは忘れない方がいい。秘中の秘と言うべき、ごく特殊なものをな。もっともそれが何を意味するかまでは、私にも理解できているわけではないのだが」


 口許に自嘲するような笑みを浮かべ、闇の魔術師はそのまま黙り込んだ。

 翌日までその話題が誰かの口にのぼることはなかった。



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