第4話:氷の洞窟 -2-
翌日、ロハスがそろえた装備は次の通り。
雪グマの毛皮のコート×3
雪グマの毛皮のブーツ×3
雪ぎつねのえりまき×3
革の手袋×3
携帯カイロ×3
薬草×10
毒消し×10
酒×6
携帯食料×12
魔力回復ポーション×5
魔物除けの聖水×10
毛布×3
寝袋×3
携帯コンロ×1
洞窟までの地図×1
オウルはカイロとコンロを眺めた。
「魔力で暖まるヤツか。よく、こんなものがあったな」
「それはもう。品ぞろえはバッチリよ」
ロハスは胸を張る。
「しかし、これだけの荷物、どうやって持って行くんだ? うちのロバはともかく、荷車はもうオシャカ寸前だからなあ。手配してくれたのか」
たずねると、ロハスは口許を吊り上げて笑った。
「ふふーん。猛吹雪の中、荷車を引いて進むなんて有り得ないでしょー。魔術師さん、常識を考えてよ」
「じゃあ、何だ。そりでも使うって言うのか」
この相手に常識をうんぬんされると無闇に腹が立つ。そう思いながら、オウルはケンカ腰で聞き返した。
だが、ロハスの余裕たっぷりな態度は変わらない。
「いやいやいや。そんな優雅じゃない方法は、このロハスは取りませんよ。ここで登場するのは」
懐に手をやり、ゴソゴソと探ってから、古びた革の袋を取り出す。
「我が家に代々伝わる秘宝! 何でも収納袋ー!!!」
一瞬、二人の間に沈黙が落ちた。
「で。その汚らしい袋がなんだって」
「あ、うちの家宝にケチつけるなんて! バチが当たりますよ!」
ロハスは憤慨した様子である。
「これは世界にも珍しい、貴重な魔力アイテムでね。何でも入れることが出来るんだよ」
「何でも?」
「そう。何でも」
ロハスは真面目な顔でうなずいた。
「あ、生き物はダメだけど。物なら何でも入れられる」
「じゃ、何か。この荷物全部、その小さな袋に入れていく、って言うのか」
「そうだよ」
半信半疑のオウルの目の前で、ロハスは装備品以外の荷物をどんどんその袋に入れ始めた。
驚いたことに、薬草、ポーションなどはもちろん。毛布や寝袋といった、どう考えても入りそうにない大きさのものまで、吸い込まれるようにその中に入っていく。
「大したもんだ」
オウルは素直に感心して言った。
ロハスも機嫌を直して、威張りかえる。
「スゴイでしょ。ま、このオレがいる限り、旅の荷物に関しては心配しなくていいよ」
「そうだな」
オウルはうなずいた。それから、観相鏡を取り出して鼻の上に乗せる。
ロハスのステイタスが、視界に表示される。
ロハス
しょくぎょう:しょうにん
LV16
つよさ:16
すばやさ:20
まりょく:12
たいりょく:26
うんのよさ:95
もちもの:なんでもしゅうのうぶくろ
オウルは、ため息をついた。期待はしていなかったが、自分とどっこいどっこいの能力値である。
「アンタ、武器は」
「え。ないよ」
アッサリした答えが返ってきた。
「オレ、戦わないし、戦えないもん。必要ないでしょ」
オウルはもう一度ため息をつき、ロハスを置いて宿屋を出た。
次に戻ってきたときには、武器屋で入手した「ヒノキの棒」を持っていた。
「ほら。やるよ」
棒を渡されて、ロハスは目を白黒させた。
「何これ。だから、オレは戦わないって。ま、くれると言うならもらっておくけどさ」
しっかり収納袋に入れるところはこの男らしい。
「いずれ必要になる。出かける時は、手に取りやすいところに装備しておけよ」
「なんで」
「すぐにわかる」
説明するのも面倒だったので、オウルはそれしか言わなかった。
この時点で。ロハスがかき集めてきた、パーティ参加希望の狩人や神官は、全てティンラッドが不採用にしている。
つまり、ティンラッド、オウル、ロハスの三人での洞窟攻略になることは、決定事項だ。
それを思うと、オウルは。
やっぱり、頭が痛いのだった。