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最強船長、陸にあがって大暴れ  作者: 宮澤花
大神殿への道
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第32話:内海を渡る -1-

 次の朝。目を覚ましたオウルは一番に思った。

『いくら突然の客だとしても、そして土間にでも転がしておけばいいと言われたにしても、本当に床で寝かせるなんてやはりここはロハスを育てた場所だ』

 絨毯の毛足は長めだったが床は床。体のあちこちが痛い。


 周りを見るとアベルが両手両足を広げてだらしのない顔で寝こけていた。ハールーンも相変わらず長椅子の上で熟睡している。残り三人の姿はなかった。


 手洗いを使いに行くとバルガスとすれ違う。

「船長とロハスは?」

 たずねると、

「ロハス君は厨房の方で店の者と何か話していた。船長は知らんな。私が目を覚ました時にはもういなかった」

 と答えが返って来た。


「朝からどこへ行ったんだ、船長は」

 オウルは呆れた。昨夜はだいぶ遅くまでアベルと飲んでいたはずだ。転がっていた瓶の数が語っている。

 それなのに夜が明ける早々にどこかに出かけて行ったのか。

「何で無駄に元気なんだ、あのオッサンは」

 まあティンラッドなら困った羽目に陥るようなことはないだろう。そう思ってオウルは心配しないことにした。



 朝食は、昨日のカニを鶏の卵でといた汁物だった。

「もうカニは当分見なくていいくらい食ったな。おい起きろお前ら、朝食だ」

 アベルとハールーンを起こそうとするが、

「うーんもう飲めませんぞ……」

「姉様、僕もうちょっと眠りたいんだ……」

 起きそうにない。


「もういいよその二人は。眠らせておこう」

 ロハスは仲間を切り捨てた。

「起こすのも面倒くさいし、起こしたら起こしたで二人とも面倒くさいし。オレたちだけで食べちゃおう」

 確かに今日出立するわけでもないし、別にいいかとオウルも思う。


 卓につこうとしたところへ、ティンラッドが帰ってきた。

「いい朝だな、君たち。私は浜辺を歩いて岬まで行って来たぞ。潮風はいいな、頭がスッとする」

 朝から上機嫌だ。

「岬って……えー、どこまで行ってきたのさ船長。船着き場の突堤のことじゃないよね? 一番近い岬まで三時間はかかるよ」

「一時間で行けたぞ」

「何時から起きてるんだよこのオッサン」


「途中で魔物に襲われている人を助けたぞ。食べられるらしいから持って来た。焼いてくれ」

 ほら、と魚の魔物を掲げて皆に見せる。

 長距離散歩の上、単独戦闘までこなして来ているとは。本当にどれだけ元気なのだとオウルは呆れた。

「はあ。これは見事な魔魚ですねえ」

 シルベも感心しているのか呆れているのか半々くらいの口調だ。


 焼き魚が食卓に運ばれてくる頃にアベルもごそごそと起きてきた。

「お早うございます。これは良い匂いですな」

「早くねえよ。そして顔くらい洗って来いよ、俺たちだけじゃねえんだからよ」

 ロハスの生家とはいえ他人の家。シルベは『お気になさらず』と言ってくれるが、やはり気になってしまうオウルであった。


「ところで、そちらの方は本当にお起こししなくてもよろしいんですか?」

 ハールーンは一向に起きる気配がない。礼儀正しいシルベも、さすがに珍しいものを見る顔になっている。

「いい。どうせ起きねえ」

「無理に起こしても機嫌悪くて面倒くさいしね」

「文句をつける割にはしっかりご自分の分はお食べになりますしな」

 砂漠から一緒に旅をして来て、その辺りは身に染みている。


「いいんじゃないか。今日はまだ出発するわけじゃないしなあ」

「眠りたいだけ眠らせてやるのが優しさというものだろうな」

 珍しくパーティの心がひとつになった。


「……そうですか」

 シルベはそれだけ言って眠るハールーンから目をそらした。

「ところで船の件ですが。船着き場にいる船が、人や荷物を運んでもいいと言ってくれているそうです。ただその時に船長がいなかったので、会って直接話してくれとのことでした。その方は海から流れてきた人ですが、今まで十回内海に船を出して一度も難破したことがない凄腕だとか」


「海から来た男か」

 ティンラッドはがぜん興味が出たようだった。

「私も会ってみたい。どんな男か自分の目で確かめる。いつ行くんだ、今か?」

「それがあのう……夜通し酒場で飲まれて、いつも昼過ぎまで起きていらっしゃらないそうです」

「なまけものだな。私がたたき起こしてやってもいいぞ」

「いや、船を出してくれって交渉しに行くんだよ。初めっからケンカ売ってどうすんだ」

 オウルはため息をついた。


「船着き場というのは遠いのか? 店の裏から浜辺に出た時には気付かなかったなあ」

「船長が行って来た岬とは反対方向だよ」

 ロハスも呆れた顔で言う。

「すぐ近くだよ、湾が街の奥まで入り込んでいるところにあるんだ。後でオレが案内するよ」


 ティンラッドは目を輝かせてうなずき、それからたずねた。

「この家の裏も船着き場になっているようだな。使わないのか?」

「ああそれ、親父が生きていた頃のやつだよ。昔は自分ちの船があってね、毎週ここから客や荷物を積んで出航させてたんだ。最後の船が沈んでからは使ってないけど」

 ロハスの答えにシルベも懐かしそうに窓の外に目をやった。


「そうか。もったいないなあ」

 しみじみ言うティンラッドにロハスは苦笑する。

「危険を冒して水路を使うことはないっていうのが『神の秤』の考えだから、仕方ないね」

「私なら危険があっても水路を使うぞ」

「そりゃ船長はそうだろうけど。そうじゃない人の方が世の中には多いんだよ」


「つまらないなあ」

 ティンラッドはそう言ってカニの卵とじを口に入れる。

「せっかく魔物がいるんだから、もっと冒険すればいいのになあ。どうしてみんな旅に出るのを嫌がるんだ」

「世の中にはもっと大事なことがあるんだよ。安全とか安心とか安定とか」

 ツッコまずにいられなくなってオウルが口をはさむ。

「面白くないなあ」

 ティンラッドはもう一度繰り返した。


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