第3話:雪と氷の町 -7-
「なるほど」
オウルは不承不承うなずいた。確かに、ロハスの言うことには一理ある。
しかも、秋の収穫は終わったばかりだ。これから一年間の食料を、この町の人はよそから買って過ごさなくてはならない。
当然、値も上がるだろうし、足元を見て商売する者も出るだろう。
(正に、目の前のコイツのようなヤツが)
と、ロハスの顔を見てオウルは思った。
「そこでだね。オレは考えたわけですよ。この町の人たちには四か月お世話になった。それなのに、その恩を返さなくていいのか! 義を見てせざるは勇無きなり。ここは、何とかしてやるのが男じゃないか! とね」
「はいはいはい」
話半分に聞き流しながら、オウルは先を促した。
「で、結局のところ何なんだ。結論を言え」
「今の感動するところなのにい」
ロハスは不服そうだったが、すぐにニヤリと笑って声を落とした。
「その洞窟にね。オレの見込みが確かなら、大した商売のネタになる商品がある。それを元手にすれば、食料の売り買いでも優位に立てるだろうよ」
「やれやれ、結局商売かよ」
オウルはため息をついた。
「当たり前でしょう。オレは商人だよ。商人が商売しなくなったら、世界がひっくり返るよ?」
なぜか威張るロハス。
「つまりだ。お前の言うことはこういうことだ。その洞窟に行って、俺たちにその商売のネタとやらを取ってこい。と」
「あ、ちょっと違う」
ロハスはニッコリと笑った。
「昔どおり、洞窟に町の人たちやオレが行けるようにしてほしいのよ。魔物を一掃してね。後の商売は、オレがやるから。それだけやってくれれば、アンタたちはお役御免。大事な商品だ、他人の手には預けられないからね」
「おい」
オウルはいきり立った。
「何だそれ。俺たちはただの魔物掃除屋か。命賭けるだけ賭けさせといて、終わったらハイさようならとは、ひどすぎねえか」
「じゃあ、今命賭ければ? 外で雪掘って野宿する? 命賭けられるよ」
コイツは。オウルは思わず拳を握りしめた。
悪魔か。
「話は分かった」
と、今まで黙っていたティンラッドが口を開いた。
「とにかく、その洞窟に行って魔物をやっつければいいんだな。いいだろう、話が簡単でいい」
「ちょっと船長」
オウルが反対するのを遮って。
「さすが船長さん、話が分かる」
ロハスが満面の笑顔でうなずいた。
「さ、さ。もう一献」
ティンラッドの杯に酒を注ぐ。
「船長」
不満げに言うオウルの杯にも、ティンラッドが酒を注ぐ。
「オウル。言ったろう、どっちにしろ魔物がいるなら倒しに行く。それに決まってるんだから、この人が手を貸してくれるならそれに越したことはない」
「ああ。そうでしたね。そうでしたよ」
すっかりふさいだ気分になって、オウルはブツブツ言った。
どう考えても、自分の命運はこの男と出会った瞬間に尽きている。
そうとしか思えない。
「で、だ。ということは、君も来るな?」
突然。矛先が変わった。
「へ」
ロハスの笑顔が凍りつく。
「だって、君も洞窟に用事があるのだろう。だったら、一緒に来た方が話が早い」
「あ、いや、オレは」
急にロハスの口調が怪しくなって、目が泳ぐ。
「オレはただの商人で、戦闘とか役に立ちませんからね?」
「かまわん。魔物を倒すのは私の役目だ」
ティンラッドは無造作に言い切った。
「それに、私の経験によると、一度巣になった場所から完全に魔物を追い出すのは難しいぞ。追い払っても、またすぐに戻ってくる。だから、用があるなら私たちと一緒に来て、済ませてしまった方が安全というものだ」
「え。いや。でも」
ロハスはみっともないほどうろたえていた。
「いいな、オウル」
「いいも何も」
オウルはため息をついた。ロハスが狼狽している姿を見るのは小気味良かったが。それにしても。
「どうせ、決めちまったら俺の言うことなんか聞きやしないんだから。けどな、これだけは頼む。頼むから船長、あと三人……いや、二人でもいい。この町の、腕の立つヤツらを一緒に連れて行ってくれ」
「うーん。そうだなあ」
ティンラッドは酒をあおった。
「まあ、君がそんなに言うなら、考えるだけは考えてみるが」
ウソだ。
直感的に、オウルは思った。
多分、ティンラッドは考える気すらない。
ただでさえ、戦闘力をティンラッド一人に頼っているバランスの悪いパーティに。
もう一人、お荷物が加わるのか。
そう思うと、オウルの頭は激しく痛むのだった。
― ロハスがなかまにくわわった! (暫定) ―