表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/309

第3話:雪と氷の町 -7-

「なるほど」

 オウルは不承不承うなずいた。確かに、ロハスの言うことには一理ある。

 しかも、秋の収穫は終わったばかりだ。これから一年間の食料を、この町の人はよそから買って過ごさなくてはならない。

 当然、値も上がるだろうし、足元を見て商売する者も出るだろう。


(正に、目の前のコイツのようなヤツが)

 と、ロハスの顔を見てオウルは思った。


「そこでだね。オレは考えたわけですよ。この町の人たちには四か月お世話になった。それなのに、その恩を返さなくていいのか! 義を見てせざるは勇無きなり。ここは、何とかしてやるのが男じゃないか! とね」


「はいはいはい」

 話半分に聞き流しながら、オウルは先を促した。

「で、結局のところ何なんだ。結論を言え」

「今の感動するところなのにい」

 ロハスは不服そうだったが、すぐにニヤリと笑って声を落とした。


「その洞窟にね。オレの見込みが確かなら、大した商売のネタになる商品がある。それを元手にすれば、食料の売り買いでも優位に立てるだろうよ」


「やれやれ、結局商売かよ」

 オウルはため息をついた。

「当たり前でしょう。オレは商人だよ。商人が商売しなくなったら、世界がひっくり返るよ?」

 なぜか威張るロハス。


「つまりだ。お前の言うことはこういうことだ。その洞窟に行って、俺たちにその商売のネタとやらを取ってこい。と」

「あ、ちょっと違う」

 ロハスはニッコリと笑った。

「昔どおり、洞窟に町の人たちやオレが行けるようにしてほしいのよ。魔物を一掃してね。後の商売は、オレがやるから。それだけやってくれれば、アンタたちはお役御免。大事な商品だ、他人の手には預けられないからね」


「おい」

 オウルはいきり立った。

「何だそれ。俺たちはただの魔物掃除屋か。命賭けるだけ賭けさせといて、終わったらハイさようならとは、ひどすぎねえか」

「じゃあ、今命賭ければ? 外で雪掘って野宿する? 命賭けられるよ」


 コイツは。オウルは思わず拳を握りしめた。

 悪魔か。


「話は分かった」

 と、今まで黙っていたティンラッドが口を開いた。

「とにかく、その洞窟に行って魔物をやっつければいいんだな。いいだろう、話が簡単でいい」

「ちょっと船長」

 オウルが反対するのを遮って。

「さすが船長さん、話が分かる」

 ロハスが満面の笑顔でうなずいた。

「さ、さ。もう一献」

 ティンラッドの杯に酒を注ぐ。


「船長」

 不満げに言うオウルの杯にも、ティンラッドが酒を注ぐ。

「オウル。言ったろう、どっちにしろ魔物がいるなら倒しに行く。それに決まってるんだから、この人が手を貸してくれるならそれに越したことはない」

「ああ。そうでしたね。そうでしたよ」

 すっかりふさいだ気分になって、オウルはブツブツ言った。

 どう考えても、自分の命運はこの男と出会った瞬間に尽きている。

 そうとしか思えない。


「で、だ。ということは、君も来るな?」

 突然。矛先が変わった。

「へ」

 ロハスの笑顔が凍りつく。

「だって、君も洞窟に用事があるのだろう。だったら、一緒に来た方が話が早い」

「あ、いや、オレは」

 急にロハスの口調が怪しくなって、目が泳ぐ。

「オレはただの商人で、戦闘とか役に立ちませんからね?」

「かまわん。魔物を倒すのは私の役目だ」

 ティンラッドは無造作に言い切った。


「それに、私の経験によると、一度巣になった場所から完全に魔物を追い出すのは難しいぞ。追い払っても、またすぐに戻ってくる。だから、用があるなら私たちと一緒に来て、済ませてしまった方が安全というものだ」


「え。いや。でも」

 ロハスはみっともないほどうろたえていた。


「いいな、オウル」

「いいも何も」

 オウルはため息をついた。ロハスが狼狽している姿を見るのは小気味良かったが。それにしても。

「どうせ、決めちまったら俺の言うことなんか聞きやしないんだから。けどな、これだけは頼む。頼むから船長、あと三人……いや、二人でもいい。この町の、腕の立つヤツらを一緒に連れて行ってくれ」

「うーん。そうだなあ」

 ティンラッドは酒をあおった。

「まあ、君がそんなに言うなら、考えるだけは考えてみるが」


 ウソだ。

 直感的に、オウルは思った。

 多分、ティンラッドは考える気すらない。


 ただでさえ、戦闘力をティンラッド一人に頼っているバランスの悪いパーティに。

 もう一人、お荷物が加わるのか。


 そう思うと、オウルの頭は激しく痛むのだった。



 ― ロハスがなかまにくわわった! (暫定) ―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ