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最強船長、陸にあがって大暴れ  作者: 宮澤花
大神殿への道
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第30話:オアシスをたどって -1-

 一月が過ぎた頃、ようやく砂漠最後のオアシス都市を通過した。

「あと五日くらいで草原に入るはずだよ」

 ハールーンが地図に目を落として言う。


「五日もですか……」

「まだまだじゃん……」

 アベルとロハスがラクダの上でうんざりした表情になる。ハールーンは二人を睨んだ。

「これだけ歩いたんだから、五日ってもう少しだと思うんだけど。砂漠が広いのは僕のせいじゃないんだから、そんな目で見るのはやめてくれない?」


 砂漠に入ってすぐの時期、かなりの時間を浪費することになったのは間違いなくハールーンの所業なのだが……面倒くさくなるのでオウルは口にしないでおいた。

「砂漠の向こうには何があるんだ?」

 代わりにそう尋ねる。ハールーンが仲間になって唯一良かったのは、地図を見てパーティを先導する役目を一人で引き受ける必要がなくなったことだ。

 他の者が面倒くさがるから仕方なくオウルがやっていたのだが、どうやらハールーンはこの仕事を栄誉と思っている様子である。自分から積極的に地図を手にしてはあれこれ行き先を指図するのだった。


「街道を進むでしょ。そしたらオアシス都市があるから、そこを順番にたどって」

「何だよソレ、今までと変わらねえじゃねえか」

「そうだよ」

 ハールーンはムキになる。文句を言われたと感じたらしい。

「当分はそんな感じ。広範囲に耕作をするような土地じゃないからね。交易都市をたどって進んで、四つ目で内海に突き当たるから」


「内海」

 今度はティンラッドが眉を上げた。ラクダの上でうつらうつらしているように見えたが、海に関する単語には反応するようだ。

「うん。僕は見たことないけれど、とても広い湖があるのだって。父様が生きていた頃は、内海沿岸の街までとは隊商の行き来があったものだけれど」

 整った顔立ちに寂しげな翳が差す。

「それも、すっかりなくなってしまったな」


「それはお前が自分の街までやってくる隊商を追い散らしてたからだよ」

 オウルがツッコむと、

「ああ、だからか」

 ハールーンはあははと明るく笑った。罪悪感はなさそうである。

 やはり魔物よりコイツの方がタチが悪い。そう思うオウルであった。


「その話はいい。内海はどのくらい広いんだ」

 ティンラッドが苛立たし気に先を急かす。

「船長、知らないのかよ」

 オウルは呆れた。

「まあ、あれは海とはつながってないからな。草原の真ん中にぽっかりある大きな湖さ。対岸なんて見えないから、知らなきゃ海と見間違う。水も塩水だしな」

「そんな場所があるのか」


 ティンラッドは俄然として元気づく。

「オウル、詳しいね」

 ロハスが不思議そうに言う。

「そうですな。まるで見て来たかのようですぞ。私も内海のことは書物で読みましたが、塩水のことは知りませんでした」

 アベルも言う。それは記述を読み飛ばしただけじゃないかともオウルは思ったが、

「有名な話だと思ってたがな。知っているのは近場の者だけだったか」

 そう言って頭をかく。砂がパラパラと舞った。


「俺の生まれは内海の南なんだよ。羊を飼って暮らしてた貧しい村だ。だけど魔物が出るようになったら、商人が来なくなって羊毛が売れなくてな。先の見通しが立たないからとっとと村を出たのさ」

 そう言ってオウルは地平線に目を向ける。砂漠の果ては遠く、大地と空の境界は煙って見えた。

「分かる分かる。本当、死活問題だよね」

 ハールーンがしきりにうなずくのは、果たして正しいと言えるのだろうか。それに答えを出す前にロハスが、

「うん、産地やハルちゃんのとこみたいな貿易都市が打撃なのはわかるけどね。でも一番死活問題なのはオレたち商人だよ、売り買いできないとホントにやることないもの」

 と訳知り顔にくちばしを突っ込んできた。


「魔物にはホント困るよ。オレたち商人の敵だね」

「うんホント困る。せめてさ、通商路には出ないでほしいよね」

 こいつら息が合ってるな。うなずき合うロハスとハールーンを見てオウルは思った。

 だが深く関わり合いたくないので特にツッコまないでおく。


「ですから我々が魔王を倒し、魔物時代を終わらせるのですぞ。そうですな船長」

 アベルが偉そうに話を引き取る。

「そうだなあ。そういう点では、海も陸も似たようなものなんだな」

 ティンラッドはいつも通り茫洋とした様子で何やら得心のいった様子で無精ひげを引っ張った。水がもったいないので全員ひげを伸ばし放題で薄汚い有様だ。

 ただしハールーンだけは『姉様と同じ顔』にこだわって、ロハスから水を買ってまで小ぎれいな姿を保っている。


「ではそういうことでですな、内海にたどり着いた暁にはオウル殿の故郷に寄りましょう。錦を飾るのですからさぞごちそうが振る舞われるでしょうな」

 嬉し気に言うアベルに、オウルは嫌な顔をした。

「やめとけ。貧乏村だって言っただろう、何も出ねえよ。……それどころか、今頃干からびていたっておかしくない。廃墟だ廃墟」

「また廃墟ですか……廃墟はもうこりごりですぞ」

 消沈した様子でアベルはハールーンをつくづくと眺めた。廃屋館での一夜が余程堪えている様子だった。


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