第3話:雪と氷の町 -6-
「で。その魔物とやらは、どこにいる」
ティンラッドはせっかちな口調で言った。
「あ、ああ」
話の急展開に驚いているのか。
ロハスも、ハッとしたように話を始めた。
「もう一度確認するけど。本当に、やってくれるんだな」
「くどい。話に乗ると言っているじゃないか」
ティンラッドは怒りはじめた。
ああ。どこかで見た展開。と、オウルはため息をつく。
「早く話しなさい。どこに魔物がいるんだって」
「あ、えーと。この町から、北に二時間ほど行った山の中腹にある洞窟だ。どうやら、そこが魔物の巣になっているらしいんだよね」
「それは魔王か?」
ティンラッドの質問は性急だ。
ロハスは天井を仰いだ。
「知らないよ。言ったでしょ、誰も挑んだことないから分からないんだって」
「あのな、船長」
たまりかねて、オウルも口をはさむ。
「この間、話したばっかりじゃないか。この国には魔王はいないだろう、って。いくら何でも、こんな都の近くに魔王が住んでたら、分かるって」
「そんなこと、誰が決めた」
ティンラッドは不機嫌に言う。
「灯台下暗しというじゃないか。案外、近くに隠れているのかもしれんぞ」
「それで、洞窟の魔物なんだけど」
ティンラッドに構っていては話が進まないと思ったのか。
ロハスは、オウルの方を向いて話を始めた。
「どんなものがいるかは、分からないんだけどね。その洞窟は、この雪が降り始める前は、町の人たちが日常的に出かける場所だったんだ。だけど、雪が降り始めたのと同時に、そこには近付けなくなった」
「と、いうのは?」
仕方ないので、オウルが先を促す。
ロハスは酒をちびりと飲んで、話を続けた。
「町を出ようとするときと同じさ。ひどい雪嵐が吹くんだ。で、誰も洞窟には近付けない、そういう話」
オウルはちょっと黙って、今ロハスが明かした情報を吟味した。
「で。そこへ俺たちを行かせよう、っていうのはどういう魂胆なんだ。その洞窟に、この異様な雪の原因があるって言うのか?」
「さあ? そんなの知らないって。何度も言うけど、雪が降り始めてからそこに入れた人はいないんだから」
ロハスは後ろを向いて、宿の主人につまみを注文する。
オウルはイライラした。
「じゃ、何なんだよ。お前は俺たちに何をさせたいわけだ?」
「うん。オレね、適当な装備と魔術師がいれば、あの雪嵐は抜けられるんじゃないかと思うのよ」
ロハスは言った。
「装備はオレが提供する。で、アンタは魔術師だって言う。で、そこの船長さんも強いって言う。そうしたら、この町を出ることも可能だと思うのね」
オウルは眉根を寄せる。ロハスの話の行く先が、見えない。
「どういう意味だ。それを試すんなら、洞窟なんか目指さずに、城下町を目指した方がいいだろう。城下には戦士も魔術師もいっぱいいるし、食料もある。この町の状態を考えたら、先に行くべきはそっちじゃないのか」
「それは素人の浅はかさだね」
浅はか、と言い切られてオウルはムッとした。
「何がだよ。魔物退治なんかより、そっちが先だろうが」
「あのね。この状態で他の町に助けを求めて、食料を売ってくれ、と言ったとするよ。するとどうなると思う?」
「どうなるんだよ」
イライラしながらオウルは尋ねた。
「決まってるだろ。秋に収穫した食料には限りがある。それなのに、この町の分まるまるをヨソから供出しなきゃならないんだ。食料は高騰する。特にこの町の人間は足元を見られて、高値を吹っ掛けられるだろうね」