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第1話:沈黙の鐘が鳴る -1-

 ソエル王国。

 海から少し離れた平原に位置するこの場所は、かつて大国として名を馳せた。十年前までは世界中からやってくる商人で城下も賑わったが、今はそれも少ない。

 人々は、畑仕事に出るだけでも魔物におびえる。

 そんな彼らを守る兵士たちの数は多いが、城下に昔の活気はなかった。

 夜の酒場では「昔は良かった」という嘆きばかりが響く。


 そんな、夜。


 流しの占い師のオウルは、やれやれと伸びをして小さな店を片付けようとしていた。

 大して、客は来ない。こんなご時世で、自分の運を見たいなどというヤツはそうそういない。

 恋する若い娘か、自分の可能性を実際より大きく見積もっている若者。

 そんなヤツらが引っかかるのを待つばかりだが、今夜は不発だった。


 いつまでも夜風に当たっているものバカバカしい。今夜は宿に帰って、もう寝よう。

 そう思った時である。


「兄さん。私の運勢を見てくれないか」

 声をかけてくる、男がいた。


 オウルは振り返った。

 背の高い、手足の長い男。背中にシタールをしょっている。

 この辺りではあまり見かけない、ゆったりしているが動きやすそうな服装をしている。

 年のころは、二十代初めのオウルより十ばかり上だろうか。

 日に焼けた顔は、精悍だが整っていて、女にモテそうだ。


 流しの音楽師、兼ジゴロか何かか、とオウルは思った。

 金は持っていなさそうだ。


「悪いがもう店じまいだよ」

 不愛想に応対する。

「ほら、もう道具も片付けちまった」


「何を言う。手相観、とそこに書いてあるじゃないか」

 男は怒り出した。

「手相を観るのに道具がいるのか。私の手はここにある。君の眼はそこについてる。他に何が要るんだ」


 酔っ払いか、と思ってオウルはうんざりした。

 仕方ない。適当にあしらって、帰らせよう。


「分かった、分かった。特別に観てやるよ。手を出しな」


 相手は「ほら出来るじゃないか」とか言いながら、ふんぞりかえって手を差し出す。

 大きな手で、いくつか傷痕がある。

 音楽師にしてはたくましい手だと思ったが、面倒くさいのでそれ以上考えなかった。


 形だけ手相を観るフリをして、口から出まかせを言う。

「ほう、こりゃあ凄い。アンタ、天下も取れる手相だ。俺もこの商売を何年もやってるが、こんな手相は初めて見た。アンタなら、もしかしてこの世のどこかにいるという魔王を倒すこともできるかもしれないな」

 か弱い音楽師には、城下町を出るなど恐ろしくて考えも出来ないだろう。

 そう思うと、オウルの口元に意地悪い笑みが浮かぶ。

「ああ、そうだ。この城下を出て世界をめぐるのがアンタの運命だ。それに違いない。大したものを見せてもらったから、見料はタダでいいよ」

 そう言って、手を離した。

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