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第27話:夢の終わり -3-

「そんな。見捨てないでよ」

 ロハスが泣き声を上げる。オウルはうるせえと言った。

「騒いでいる暇があったら何か出せ。天幕はないか。少人数用の簡単に広げられるヤツ。なるべく壁布がヒラヒラしているヤツがいい。急げ。船長が防いでくれている内に」

「天幕?」

 ロハスはきょとんとしたが、さすがに今回は緊急性を理解したのか文句を言わずに『何でも収納袋』の中を探り始めた。

 

 その間にオウルは防護呪文を追加で唱える。今回は魔力のかなりの部分を精神防御に振り分けてしまっているので、その上に物理防護の呪文まで重ねるのは難しいが。やらないよりはマシだ。

 

 前線に立つティンラッドとバルガスを手厚めに防護層を構築していく。ロハスとアベルが知ったら怒るだろうが、この二人が斃れたら防護呪文もへったくれもない。戦闘能力のない三人では、ハールーンと彼の操る魔物に手もなくやられてしまうだけなのだ。

 パーティ全員の命が、最初にして最後の防衛線である二人にかかっている。情けない話である。


「オウル、これでいいかなあ、四人用でちょっと大きいんだけど簡単に広げられるヤツがあったよ」

 ロハスののん気な声がする。今ひとつ現状の深刻さを理解していないようだ。

「どうでもいい、広げられるんならさっさとやれ」

「夏用で布が薄いんだけど」

「いいよ、壁布がひらひらしてるんなら」

「してる。古くて支柱にうまくからまらないんだ」


 そんな商品ばっかりだなとオウルは思ったがツッコんでいる余裕はないので、

「とにかくさっさと広げろ!」

 と指示をする。

 幸い天幕のその現状はオウルの希望に適っていた。その中で夜を過ごすならともかく、今この時に当たってはボロボロであるならボロボロであるほど良い。……もちろん限度はあるが。


 後ろでドタバタしている仲間たちには構わず、ティンラッドはハールーンめがけて突進した。

 攻撃は最大の防御。相手が仲間たちを狙うことで攪乱を狙うなら、こちらはそれをさせる隙を与えない猛攻をかけるまでだ。

 だがハールーンもそれを読んでいた。軽い動きで横に跳び、ひたすら逃れる。ティンラッドの攻撃の届かないギリギリの範囲を保ち、嘲うように短刀をちらつかせる。


「追いかけっこが好みか? 子供ではあるまいし」

 ティンラッドは舌打ちした。ハールーンは青い瞳を意地悪く光らせる。

「僕は弱いから、どんな手でも使うよ。勝てるなら、誰に何と言われようとそれでいい」

「君が弱いだと?」

 ティンラッドは呆れたように言った。

 

 打ち込んだ刃をハールーンが短刀で止める。その一瞬にティンラッドは彼の目をまっすぐに見て、

「君は強いじゃないか」

 と怪訝そうに言った。


「なっ……」

 再びハールーンが絶句する。

 その胴をティンラッドは薙ぎ払いにかかった。ゆったりと会話をしたかと思えば、本気で殺しにかかる。矛盾に見えるが彼の中では両立している。

 殺し合うことも言葉を交わすことと同様に、ティンラッドにとっては他者を知るための手段だ。


 ハールーンはその攻撃を椅子の後ろに回り込んで避けた。気を失ったパルヴィーンの反対側にしつらえられた優雅な形の椅子が、新月の刃で微塵に砕かれる。

「ほら。強い」

 ティンラッドは嬉しげに笑った。

「あんた、おかしいよ」

 ハールーンは毒づいた。まったくその通りだとオウルは思った。


 その間にロハスはアベルに手伝わせて天幕を何とか設営していた。簡単に広げられるというのは本当だったらしい。品質はともかく、商品の種類だけは豊富だ。

「オウル。出来た」

「よし、その中に入れ!」

 オウルはアベルも連れてその中に飛び込んだ。

 古びた天幕の外幕は風に揺られてパタパタとはためいている。


「しかしオウル殿。こんなボロ天幕に逃げ込んでも状況は好転しないのでは」

 アベルがハッキリと言った。

「ボロじゃないよ! 夏で、天気が良くて、地虫や羽虫も出ないところだったら快適に使えるよ!」

 とロハスは主張したが、そんな場所なら野宿をしても快適に過ごせるだろう。


「そうでもない」

 オウルは言った。

「布の後ろから顔を出すなよ。おとなしく隠れてろ」

 二人にそう言い、外にいるバルガスに向けて怒鳴る。

「先達。風の術を使ってくれ」


「勝手なことを」

 バルガスは振り返りもせずにそう言う。だがそれに続く呪言は、風の刃で敵を倒すものだ。

「火の方がいいのではないですか」

 アベルが言った。

「この天幕の中は寒いですぞ。少しでも火を起こしてくれれば違うと思うのですが」


 敵を焼き払う炎の術と、暖を取るための焚火を一緒にされてはバルガスが気分を害すると思うが。

「そういう問題じゃねえんだよ。この布がヒラヒラしていた方がいいんだ」

 と、オウルはもう一度言った。



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