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第26話:白い街再び -6-

 ほっそりとした影。

 館の中から現れたパルヴィーンにそっくりな青年が、そっと姉に寄り添った。

「ハールーン。あなたは下がっていなさい」

 パルヴィーンはきつい口調で弟に言った。

「これは太守としての役目。狼藉者を街から排除するのです」


 ハールーンは悲しそうな顔をした。

「姉さまが困っているのに僕は何も出来ないの? 僕も力にならせて」

 パルヴィーンは頑なに首を横に振る。

「あなたはこんなことに関わらなくていいの。部屋に戻って勉強でもしていらっしゃい」

「でも姉さま」

「聞き分けなさい!」

 鈴のような声が荒くなる。


「……姉さま」

 ハールーンは困ったように、同じ色の瞳で姉を見る。パルヴィーンはハッとしたように顔を背けた。

「あなたにはこんな者たちと関わり合ってほしくないのです。ですからお願い、下がっていて。ハールーン」

 太守の弟は黙り込んだ。それから険しい顔で闖入者たちを睨みつける。

「姉さまをいじめたのはあなたたち?」

 鋭い声。


「いじめたって」

 ロハスが困ったようにアベルを見る。

「そういうわけじゃ。ねえアベル」

「そうですぞ。私たちはむしろパルヴィーン様をお救いしようと」

「そうそう」


「だったら、どうして僕の姉さまがこんなに悲しそうな顔をしているんだ」

 姉をかばうようにハールーンは前に出る。

 ロハスとアベルは顔を見合わせ、その視線が同時にバルガスに向かう。

 闇の魔術師はその視線を無表情にはねのけた。

 ハールーンは敵愾心をむき出しにしてバルガスを睨みつける。


「姉さまを傷付けるヤツを僕は許しておかない」

 一歩前に出る弟をパルヴィーンが引き止めた。

「やめて。いいのですハールーン。この人たちは衛兵に任せておけばいいの。あなたは関わり合わないで」

「姉さま」

 ハールーンは姉の顔を見下ろす。

「僕は姉さまを守る。そのために僕はここにいる。だから姉さまにそんな顔をさせるヤツらを許しておくつもりはない」

 きっぱりと言うと彼女に背を向け、旅人たちに再び向かい合う。

「これ以上姉さまを困らせるなら、僕があなたたちを殺す」

 華奢な白い手が上衣の内側に差し入れられる。


「なるほど」

 バルガスは冷めた口調で言った。

「ひとつ聞いてもいいか。この街に、君たち姉弟以外に人間はいるのかね?」


 その瞬間、二人の表情が凍った。

 白い顔から更に血の気が引き、整った顔立ちがひきつったまま動きを止める。


「……もう一度言ってみろ」

 奥歯をギリリと鳴らし、ハールーンがバルガスを睨みつける。

「言わないで!」

 パルヴィーンが悲痛な声で叫んだ。

「ハールーン、ダメ! そんな言葉に耳を貸してはいけません!」


「どうもよく分からないな」

 ティンラッドが退屈そうに言った。

「これは結局、どういう話になってるんだ?」

 オウルの方を向いて尋ねる。俺に振られても、とオウルは思った。

 彼にもこの場の状況がよく飲みこめていない。分かっているのはどうやらバルガスひとりのようだ。


 いや。

 オウルは青ざめた顔で立ち尽くす姉弟に目を戻す。

 この二人も分かっているのか?


 だがそうだとして、どちらがこの事態の『鍵』なのだ?

 姉弟で共謀しているのか。しかし今の様子を見た限り、二人が一緒に街の異常な状況を作り出しているようには思えなかった。それくらい二人の対応も言っていることもちぐはぐだ。


「何だか馬鹿馬鹿しいなあ」

 ティンラッドがハッキリと言った。

「ここへ来れば暴れられると思ったんだが。あんまり面白い魔物もいなさそうだし、姉弟ゲンカを眺めていてもいっこうに面白くないぞ。君たち、つまらないから帰ろうか。次の街へ向かった方が面白そうだ」


「は?」

 オウルは呆然とした。

「船長、アンタ何言ってんだよ? この街の秘密を暴いて記憶を取り戻すんじゃなかったのかよ?」

「うーん。そのつもりだったんだがなあ」

 ティンラッドはぼりぼりと頭を掻いた。


「面白そうだと思ったんだが、いざやって来てみればちっとも面白くない。それならわざわざこんな面倒なことをすることもない。記憶なんかなくても、ロハス君は結構楽しそうにやっていたじゃないか」


 突然話を振られてロハスも目を丸くし、次の瞬間全力で両手を横に振る。

「良くない。ちっとも良くない。記憶がないと分かっちゃったら気持ち悪いよ、やっぱり。それにこんな美人と出会ったこと忘れたくない。オレとパルヴィーン様のあれやこれやをきちんと思い出さないと……」


「何だよ、あれやこれやって。アンタと姉さまに接点なんかないよ。ヘンな記憶捏造するなよ」

 ハールーンが苛立ったように言った。

「すると君は」

 バルガスが氷のような声で言った。

「私たちが『以前に』この街を訪れた時のことを覚えているというわけだな?」


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