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第25話:失われた記憶 -5-

「続きを読むぞ」

 とバルガスは言った。

「オウル君より情報。太守からも朔の夜は決して外に出ないよう重ねて注意があった旨。いわく、この街は呪われているとか。ロハス君の商談は夕方までまとまらず。翌日、再戦という段取りとのこと」


「ウソ!?」

 ロハスが愕然と呟く。

「このオレが商談をまとめるのにそんなに手間取るなんて? ありえない。アレ、相手は誰だっけ」

 バルガスは帳面を見直す。

「太守の弟だな。名前はハールーン」

 ロハスは眉間にたてじわを寄せ、懸命に記憶をたどろうとする様子だ。

「ダメだ。微塵も思い出せない……」


「まあ、その辺はあまり重要ではないのでしょう」

 アベルがあっさりと言った。

「パルヴィーン様はどうなったのですかな?」


「さあな。日が傾いたので居城に帰ったのではないか? 特に記載はないな」

 バルガスは冷淡に答えた。

「我々も日が暮れる前に宿屋に戻ったとのことだ。そこで船長が主張。魔物が出るなら今夜は外に出る。説得の余地なし」


 その言葉と同時に全員のまなざしがティンラッドに注がれた。

 もちろん、声には出さないがハッキリと非難を含んだ視線である。

「何だ。どうしてみんな私を見るんだ? 魔物がいると聞けば退治に行く。当たり前のことじゃないか」

 心外そうに主張するティンラッド。

 その姿に全員が『議論してもムダだ』と感じた。


「それでどうなった。全員で行ったのか?」

 オウルが尋ねると。

 バルガスはふむと呟いてあごに指を当てる。

「君と船長の二人で出かけたようだな」


「はあ?!」

 思わず叫ぶオウル。

「何で俺?! 何で俺だけ生け贄みたいになってんだよ?!」


「詳しい経緯は書いていないが。おおよそ、こういうことではないかな、オウル君」

 バルガスは淡々と説明した。

「何が待ち受けているのか分からないところに全員で出て行くのは得策ではない。何しろこのパーティは戦闘に向かない人間を三人も抱えているのでね。戦闘員より非戦闘員の方が多い。大変無駄の多い構成だ」


「そんなこと今さら解説されなくても分かってるよ」

 オウルはムスッとして言った。何だか莫迦にされたようで面白くない。

「そこで我々はこう考えたのではないかと思うのだが」

 バルガスは、オウルの不機嫌な返答を意にも介せず話を続けた。

「どうせ説得しても船長は止まらん。だったらパーティを二手に分けようということだろう。ひとりでは行動しない、非戦闘員だけで行動はさせない、と先に方針を決めたな。それに従うと、船長が外に出る以上、もう一人の戦闘員である私は後を守る組ということになる……」


「アンタの差し金かよ?!」

 オウルは思わず力の限りツッコんでしまったが、バルガスは平気である。

「ただの推測だ。だがこの後の記述を読むと私とアベル君、ロハス君が宿に残り、君と船長が出かけたようだからおおよそそんな風に話が進んだのではないかな。宿に残る分、私が二人を引き受けたということだな。三人の中ではまだしもオウル君、君の方が役に立つことだし」


「イヤそれ、アンタ行きたくないから俺に押しつけただけだよな?! 何サラッともっともらしく言ってんだよ!」

 そう怒鳴ってから、オウルはおかしな感覚に襲われた。

 いつかどこかで同じツッコミをしたような、しなかったような……。


「オウル、どうした」

 ティンラッドが不思議そうにたずねる。

「いや……。何だかおかしな感じが。前にも全く同じやりとりをしたような」


「まあ、五人しかいないパーティだからな。自然と会話は同じようなものになるだろうよ」

 さらりと言うバルガスに。

「違うだろ! 今の、間違いなく同じ会話をアンタとしてるだろ! 記憶を探るとか言っておいて、都合のいい時だけ話をすりかえるなよ! アンタもいい加減ちゃらんぽらんだな!」

 体調の悪いのも押してツッコみまくるオウル。

「なるほど。私も、君たちに少し影響されたかな」

 人の悪い笑みを浮かべて流すバルガスを、最悪だとオウルは思った。


「まあまあ。オウル殿、あまり怒ると体に障りますぞ」

 アベルが仲裁に入る。

「意地を張らずに私の神言の力で回復なさってはどうです」

「死んでもイヤだ。アンタに殺されるより自然死を迎えたいんだ、俺は」

 オウルはムスッとして横を向く。

 どうしてこのパーティには、こんなにもマトモな人間がいないのか。


「それで。その先どうなったの?」

 ロハスに促されて、バルガスはまた帳面に目を落とす。


「船長たちが出かけた後、宿屋の夫人が我々の集まっている部屋に酒を持ってくる。……それぞれの部屋には戻らず一室に集まっていたようだな。まあ当然の判断か。……朔の日の厄落としに酒が効くとのこと。アベル君とロハス君は飲み始めたが、私は遠慮しておく。時間が経つほどに魔の気配が強まってくる。船長とオウル君は帰って来ない。ひしひしと魔の気配を感じる。まるで街中に魔物が満ち満ちているようだ」


 静かに読み上げる声に、次第に周囲は静まり返った。


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