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第24話:地下水路の冒険 -5-

「さて、どうするかな」

 バルガスが杖を構えたまま言った。

「オウル君。考えたまえ」

「何で俺だよ?!」

 思わず突っ込むオウルだが、バルガスの口調は冷ややかなままだ。

「こちらは戦闘で忙しい。ゆっくりものを考えている暇はない。打開策を考えるのは後方の役目だ」


 白い頭が空洞のような口を開け、こちらに向かって突っ込んでくる。

 それに向けてバルガスはまた火球を打ち込む。

 熱を嫌ったのか魔物は頭をそらした。おかげで何とか彼らはミミズのエサになることを免れた。


「ううー、気持ち悪いよ~」

「趣味が悪いですぞ」

 戦力になるつもりの全くない二人が、のん気に感想を述べている。


 暗闇に閃光が走った。

 水路の反対側からティンラッドが再び跳躍し、新月を抜き打ちにたたきこむ。

 刃はまたしても滑った。水の中から長大な体がくねりながら現れ、空中のティンラッドを捉えようと尾を振る。それを身ごなしで避けながら、長身の船長は仲間たちから少し離れたところに着地した。

「埒があかないなあ。ぬるぬるして刃先がそらされてしまう」

 首を振りながら、のんびりと通路を歩いてやってくる。

「オウル。何か考えなさい」

「だから、何で俺限定だよ?!」

 オウルは憤然とツッコんだ。しかしティンラッドは、

「考えるのは君の担当だ」

 と、さも当然のように言う。


 いつからそんな役割分担になったのか。初耳だと思う。

 けれど、彼にも彼なりに考えていることがあった。

「うまくいくかはやってみねえと分からんが。船長、先達。準備している間、時間を稼いでもらえるか」


 ティンラッドが振り向いて口許に笑みを浮かべる。

「当然だ。バルガス、連携でもしてみるか」

「構わんが。何をする気だ?」

「君の炎の上から刀を叩きこむ」

「燃えても知らんぞ」

「気を付けよう」

 それだけで、あっさりと相談は終了する。


 バルガスは杖を構えた。一度深く身を沈めたティンラッドが高く跳躍する。

 その落下に合わせてバルガスは魔物に向かい火球を打ち込んだ。魔物は白い巨体をよじる。

 時を合わせ、闇を突き抜ける新月の刃がその焔の中心を突き抜けた。

 火球はそのまま粘つく皮膚の上を滑ってあらぬ方向に飛んでいくが、炎の熱をまとった鋼は粘液を蒸発させつつ深く肉に食い込んだ。

 体液が飛び散る。

 魔物は激しく身を動かした。ティンラッドは放り出される。

 水路の天井に叩きつけられそうになるが、とっさに足を出して岩壁を蹴り、宙で回転して足場に下りる。


「うん、行けるな」

 何事もなかったように立ち上がって、嬉しげに笑った。

「バルガス、続けていこう」

「簡単に言ってくれる」

 バルガスは苦い顔をする。この連携は、バルガスの方により繊細な術の行使を要求する。

 自由気ままに暴れ回るティンラッドと違い、彼には後方の仲間を守る責務もあった。


 もっとも、とバルガスは口許に人の悪い笑みを浮かべる。

 いざとなったら、彼らには自分で自分を守ってもらうという選択もある。

 パーティの統率者自らがその職務を放り出しているのだ。

 自分のことは自分でなんとかするのがここの流儀らしいから、そうされても彼らも文句は言うまい。

 そう思いながら彼は、仲間たちに襲いかかろうとする巨大な白い尾を風の刃で牽制した。


 一方。オウルはロハスに持っている油を出せと交渉していた。

「ええ? ヤダよ、油は高いんだよ」

「一番安いクズ油でいい。そして毎度毎度グズグズ言う癖をやめろ。そんなお約束必要ねえんだよ」

「偉そうに言わないでよ。それならこっちも言わせてもらうけど。前にも言ったけど、オレは商品にするためにいろいろな物を持っているんであって、魔物相手にタダでぶちまけるためにお金を出して仕入れをして来たわけじゃないの」

「こっちも毎回言ってるが、命と金とどっちが大事なんだよっ!」


 結局ブツブツ言いながらもロハスは同意した。最後には同意するんだから、初めから言うことを聞けばいいんだとオウルは今回も思った。

 大きな樽を、アベルに手伝わせて『何でも収納袋』の中から引っ張り出す。

「重い。重いですぞ。どうして毎度毎度、重いものばかり出させるのですか」

 今度はアベルが文句を言う。


「黙れ。たまたまだ。他に出来ることがないんだから、文句を言わずに働けよ」

 オウルは不機嫌に答える。

「ありますぞ、出来ること。私の神言の冴えをお忘れですか」

 アベルは言い返すが、それを聞いただけでオウルは暗い気持ちになった。

 闇の魔術師を倒してしまう回復呪文など恐ろしすぎて、おいそれとその力を振るってもらいたくない。しかもその力が運任せとなると尚更だ。


「いいから黙っててくれ。今、調整しているんだ」

 頭の中で術式を組み立てながらオウルは言う。

 これからやることはバルガスの術に負けず劣らず、微妙な呪文の制御が必要とされるはずだった。


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