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第24話:地下水路の冒険 -3-

「どちらに行くかね」

 バルガスがたずねた。川上と川下、どちらに向かうかということだろう。

「川上だろう」

 オウルは言った。

 川上に向かえば、そちらから吹く風に乗り魔物の気配が探知しやすい。


「うーん。どちらにしようかな?」

 ティンラッドは迷っている様子だ。

「方角的にも川上だろう」

 オウルは急いで言葉を足す。

「川下に向かうと、来た方向に逆戻りするようになるぜ」

「川上に行こう」

 ティンラッドは即決した。「戻る」とか「遠回り」とかいう言葉が彼は大嫌いである。

 オウルはホッとした。これでとりあえず、少しは安心して前へ進むことが出来る。


 しかし、ゆっくりしている暇はない。オウルはすぐに、今いる場所の壁と足下に魔法陣を描いた。

「何やってんの?」

 ロハスがたずねる。

「目印を付けているんだよ。戻る道が分からなくなったらまずいだろうが」


「何を言っているんだ。戻らないぞ」

 と、「戻る」という言葉が大嫌いな人が言っているが。

 万が一ということもある。それに、水路がどの方向に向かっているのかもはっきりしない。とんでもない方向に連れて行かれた場合、ここまで戻ってくる必要があるかもしれない。その時のために手を打っておかなくては、この水路を永遠にさまようような羽目にもなりかねない。


「オウル殿は心配性ですなあ。なるようになりますよ」

 幸運値500の神官も何か言っているが。運だけで生きている男のように、行き当たりばったりの人生を送るつもりはない。そう思うオウルであった。


 続けてパーティ後方に盾の役割をする防護魔術をかける。風下の後方から、暗闇に乗じて魔物が迫ってくる可能性もある。バルガスが気を配ってくれるだろうが、それでも万が一に備えたいのは生まれ持った性格だ。


 たてつづけに呪文を唱えてオウルはすっかり疲弊した。やはり、まだ体力が戻っていない。

「さあ、さっさと行くぞ。オウルどうした、しっかりしないか」

 早く出発したくてうずうずしている様子のティンラッドに背中を叩かれたが、すぐには立ち上がれない。というか、この前から痛む場所を叩かれて余計に立ち上がれなくなった。

「待ってくれ。今、ちょっと立てねえ」

 無理やり声を絞り出して言うと、ティンラッドは呆れたように肩をすくめた。


「本当に仕方がないなあ。ロハス、荷車か何かないか? この場所でも使えそうなやつだ」

「うーん。鉱山で、掘り出したクズ石を運び出す用のヤツならあったかも」

 

 出てきたのは幅が狭く、底に車が三つ付いた小さな荷車だった。

「これに乗りなさい。仕方ないから引っ張って行ってやろう」

 そう言われて、反論するヒマもなくティンラッドとバルガスの二人がかりで放り込まれる。

 狭い。痛い。乗り心地が悪い。


「いいですなあ、オウル殿。調子が良くなったら、私も乗りたいですぞ」

「バカ、ふざけるな。これ、乗り心地最悪だぞ。下ろしてくれ。普通に休ませてくれ」

「まあ、元々人間用じゃないからね。クズ石を捨てるためのヤツだからね」


 だが、もちろん。聞く耳を持つティンラッドではない。荷車の持ち手に、ロハスが出した荒縄をつけ、それを肩にかけると、そのままスタスタと歩き始めた。オウルが乗った荷車が、引っ張られて進み始める。

 はるか太古に作られた地下水道の通路の石畳はあちこち傷んでいて、荷車は上下に揺れたり左右に傾いたり、飛び出た敷石に引っかかって縦向きになりかけたり。

 乗っているオウルは、一瞬も気が休まらない。


「やめろ、よせ、ホントに、頼むから下ろしてくれ!」

 わめく声が。どこまでも続く洞穴にこだまする。

「うるさいなあ。君はちょっと贅沢だぞ、オウル。何もしないでも前に進めるのに、何が不満なんだ」

「何がって、全てだよ船長! アンタ自分でこれに乗ってみろ! そして、俺はちょっと休ませてほしかっただけなんだ、そうしたら自分で歩くんだ! とにかく下ろせ、俺は鉱山で掘り出したクズ石じゃねえぞ。こんなのに乗せられていたら、具合がよくなるどころかますます悪くなる!」


「困ったなあ」

 ティンラッドは振り向いて、これ見よがしにため息をついた。

「だが、悪いがその提案には乗れない。オウル、私はな。さっさと前に進んで、魔物と戦いたいんだ」

 そう言ってまた、後ろに対する配慮など全くなしにスタスタと歩き出す。

 オウルはキレた。


「ふざけるなあ! アンタ、俺の話を聞く気なんてないだろう?! パーティを預かる身なんだから、少しは他の人間のことも考えやがれ!」


「オウル、うるさい」

「うるさいな」

「うるさいですな」

 全員から一斉にツッコミが入り、「このパーティには他人を思いやれる温かい心の持ち主はいない」ということが改めて感じられた。


 オウルは久々に、「いつかここから抜けてやる、絶対に」という気持ちが燃え上がるのを感じ。

 同時に、言い知れぬ不安を覚えた。

 さっきの台詞に似た言葉を。いつか、どこかでティンラッドに言った。

 だが、それがいつだったのか。どうしても思い出すことが出来ない。


 大切なことを忘れている気がした。

 知らないうちに誰かの意のままになっているような気持ち悪さが、胃の中から口へと這い上がってきて。

 

 オウルは口許を押さえた。

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