第24話:地下水路の冒険 -1-
数日後。
気付けば彼らは、また変わらぬ砂漠の旅を続けていた。
「あー。次の街までどのくらいだっけ?」
ロハスが服から砂を払い落としながら言う。
「知らねえ」
ここ数日、体調が悪いオウルの返事は短い。
「前の街で地図確認したんでしょ? 距離くらい確認して来なかったの?」
「ああ? 地図を確認してきたのはお前だろ?」
「オレじゃないよ」
「じゃあ、誰だよ。先達か?」
話を振られて、バルガスは軽く眉を上げる。
「知らんな。私ではない」
「船長なわけないしな」
オウルはチラリとティンラッドを振り返る。
行き先を確認して計画的に行動するティンラッド、というのが全く想像できなかった。
「まさか、誰かクサレ神官に任せたんじゃないだろうな。誰だよ、そんないい加減なことをしたヤツは」
「知らないよ。オレじゃないよ」
「先程から、他人のせいにしたがるようだが」
バルガスが唇を歪める。
「君ではないのかね、オウル君。自分の責任を他人になすりつけるのはみっともないぞ」
「俺じゃねえって言ってんだろ?!」
言い合いになる。
「君たち、喧嘩はやめなさい。みっともないぞ」
ティンラッドに仲裁された。
何だか、そのことが一番理不尽な気がした。
「オウル。最近、怒りっぽいぞ。どうしたんだ」
「前にも言っただろう。体調が悪いんだよ」
オウルはイライラしながら言った。
背中は痛むし、寒気がしたり、手足が思うように動かなかったり、ここ数日は本当に具合が悪い。
まるで、性質の悪い毒でも食らったようだ、と思う。
「やだなあ、オウル。ヘンな病気でもうつされてきたんじゃないだろうね」
ロハスが横目でオウルを見る。
「オレ、しばらくオウルの近くに寝袋置くのやめよう」
「そうだな。伝染性の病だったら問題だ。隔離した方がいいだろうな」
うなずくバルガス。
初めから期待はしていないが、この二人には本当に人間の情がない。そう思うオウルである。
「いけませんな」
後ろからアベルがしゃしゃり出てきた。
「こういう時こそ、大神殿の三等神官である私の出番です。私の華麗なる神言でその病、見事に治して進ぜましょう。ささ、気を楽にして」
腕まくりをして、やる気十分であるが。
「やめてくれ」
オウルはガックリして言った。
今、この体調でアベルの必殺技「治癒神言」のマイナス3など食らおうものなら確実に、死ぬ。
病で死ぬ前にアベルに殺される。その自信がある。
「なぜ治療を拒否するのです。適切な手当ては、完治への第一歩ですぞ」
アベルは不満そうに言うが。
相手がマトモな神官なら、オウルだって金を払ってでも治療してもらいたいと思うだろう。
マトモじゃないから、下手に手出しをして欲しくないのである。
そこのところを理解してもらいたい、と心から思う。
「しかし、オウル君がこのていたらくでは、今日もあまり先まで進むことは出来ないな。適度に休憩を入れた方が良さそうだ」
言っていることを要約すると「オウルの体調が悪いから無理せず進もう」となり、気を遣われているようでもあるが。
口調が限りなく冷たく揶揄するようであるので、真逆の意味にしか取れない。
厭な個性だな、とオウルは思う。
「そんなこと言って、昨日もダラダラ歩いてろくに進まなかったじゃないか。私は飽きたぞ。魔物がちっとも出ない、こんな旅をしていても面白くない。さっさと砂漠を横断してしまおう」
ティンラッドが憤懣やるかたない、という口調で言った。
「あのね船長。だから、オウルがムリできないって」
ロハスが口をはさんでくれるが。
大方、自分もそろそろ休みたいからに違いない。オウルの体調がまともなら、パーティで一番体力がないのはロハスである。
「仕方ないなあ。私が背負って行ってやろう」
ティンラッドは呆れたように言うと。スタスタと歩いて来て、オウルをひょいと担ぎ上げた。
「何だ、おい。やめろ、船長」
オウルは抵抗するが。ティンラッドはそれにチラリと目を向けて、
「面白くないなあ」
と、ため息をつく。
「女の子なら良かったのに。君、魔術で今だけでも女の子になれないか?」
「そんなわけのわからねえ魔術はねえよ! ふざけるな」
「うん、まあ。オウルが女の子になっても、あんまり面白いことはなさそうだよね」
「そうですなあ」
ティンラッドの莫迦発言も腹が立つが。
ロハスとアベルの失礼な論評も腹が立つ。
そして無言で冷笑を浮かべているバルガスには、もっと腹が立つ。
「いいのではないか? 船長は旅程がはかどって喜ぶ。君は体力を使わずに進むことが出来る。お互いが得をしているのだから、問題はなかろう」
「あるよ!」
オウルは憤然と叫んだ。
「俺は荷物か。おっさんに担がれたって、こっちだって面白くも何ともないよ」
「何だ、君は力強い女性に担がれる方が好みか。変わっているな」
ティンラッドが呆れたように言う。
「人の好みはそれぞれだな」
「誰もそんなこと言ってねえ! そんな特殊な趣味は持ってねえよ!」
とオウルは抵抗したが。
「オレは大きい女はちょっと……」
「私も、胸やお尻が大きい分にはいいのですが。筋肉質はちょっと。オウル殿は勇者ですなあ」
「うん。さすがのオレも、そっち方向にはなかなか手が出しづらいよ」
パーティの中で「オウルは巌のような女性が好き」という情報が、勝手に共有された。
全員、死ね。
オウルはそう思った。