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第22話:朔の日 -6-

 どうしてこうなった。

 夜。止める宿屋の一家を振り切って外に出るティンラッドの後に続きながら、オウルは自分の運命を全力で呪った。


「全員で出るのは得策ではないな。このパーティは各々の戦闘力の差があり過ぎる。危険と分かっている場所に、ほぼ役立たずの人員を三人も連れていくのは愚の愚だ」

 バルガスが嘲笑まじりに言った、その言い方にはムカついたが。

 反論できない。自分はロクに役に立たないし、ロハスはそれ以下だし、アベルは不確定要素すぎる。

「じゃあ、アンタと船長で行くのか? 先達」

「ここに君たち三人を残してか?」

 露骨に莫迦にした口調でバルガスは言った。

「ここにいれば安全だという保証はない。ただ、この街の人間がそう言っているだけのことだ」


「全員が口裏を合わせているなら、意味はねえってことか」

 オウルは眉間にしわを寄せる。


「イヤイヤイヤ。他の人間は信用できなくても、パルヴィーン様だけは違うでしょ」

「そうです。美人は正義ですぞ」

 何か言っているヤツらがいるが、全力で無視する。


「じゃあ、どうするんだよ。言っとくが船長は止まらねえぞ」

「承知している」

 バルガスは首をすくめる。

「それじゃどうする」

「最初に立てた方針をもう忘れたのかね」

 闇の魔術師は冷笑した。


「この街では一人にならないこと。常に二人か三人で行動する。戦闘力のない者たちだけでの行動は慎むべきだ。つまり、私と船長は常に別行動ということになる」

「はあ?!」

 オウルは呆れた声を上げた。

「要するに、アンタは残留しますってことかよ!」

「結論を言うとそうなるな」

「そうなるじゃねえよ! 何、サラッと一抜けしてんだアンタ!」


 はいはいはい、とロハスが手を挙げる。

「オレ! オレもバルガスさんと残ります! ほらオレ、明日に備えて対策を練らなきゃならないし。今日は商売の下交渉に全力を使って疲れてるし」

「それでは私も残りましょう。ロハス殿の疲れは我が神言で癒やしてさしあげますぞ」

「イヤそれは要らない。普通に寝れば治るから」


「ということだな」

 バルガスが唇の端を吊り上げる。

「戦力的にもそれが妥当なところだろう。ここは我々に任せて、船長を頼むぞオウルくん」


「待て待て待て」

 完全に出遅れた、と舌打ちしながらオウルは慌てて抗議する。

「俺が行ったってどうにもならねえだろ?! ここは初心に帰って、全員で無理やりにでも船長を思いとどまらせる方向で……」


「と、なれば戦うしかないと思うが」

 バルガスが不快げな表情で言った。

「私はごめんだな。あんなモノと戦うのは一度で十分だ」

 もっともな意見だった。


 もちろん、他に誰も力づくでティンラッドを黙らせられるような者はいない。

「大丈夫だ。君は優秀な補助魔術使いだ。頭を使えば上手くやれるだろうさ」

 と完全に他人事で言うバルガス。

 そして、

「頑張れオウル」

「陰ながら無事をお祈りしておりますぞ」

 もっと他人事なロハスとアベル。

「もう相談は終わったのか。早くしたまえ、君たちはいちいち議論が多すぎる」

 魔物と戦いたくてうずうずしているティンラッド。


「オウル君がついて行くことになった。我々はここで後ろを守る」

「そうか」

 既定のこととして勝手に報告するバルガスと、あっさりうなずくティンラッド。

「待て待て待て。俺は納得してねえ!」

「往生際が悪いぞオウル。早く行こう。夜は短い、早く行かないと魔物がいなくなってしまうぞ!」


 こうして無理やり連れ出された。


 オアシスの近くのこの街も、吹く風は砂漠の真ん中に劣らず冷たい。

 雪グマの毛皮の外套や帽子にくるまりながら、オウルは空を見上げた。

 雲一つない夜空には、今夜は月の影はなく。

 星々だけが頼りなく地上を照らしている。


 砂漠なら、星明りだけでも辺りが見渡せた。

 だが街では家々や塔の影が濃く落ちて、闇を街路に作り出す。


 魔力の波動が強い、と外套の襟を立てながらオウルは思った。

 どうして今まで感じなかったのだろうか。月がその姿を隠す今夜。街は恐ろしいほどに、魔物の気配に満ちている。

 それなのに静かだった。

 襲いかかろうと息をひそめている気配はない。

 こんなにも、辺りは魔の気配にあふれているのに。


「いるな。いるぞ」

 ティンラッドは嬉しそうに笑った。

「いっぱいいるな。狩り放題だ」


 何でそういう思考になるのか。その気楽さがいっそうらやましいとオウルは思った。

 この状況は、危機以外の何物でもない。

 十重二十重に魔物に囲まれ、自分たちは無防備同然だ。

 宿屋の方だってこの分では無事かどうかアヤシイ。まあ、あちらは大口をたたいた分、バルガスがどうにかするだろうが。


「うーん。首魁はどこだ。オウル、分かるか?」

 ティンラッドが振り返って聞いた。カンのいい彼にしては珍しい。

 オウルは首を横に振った。

「そこら中、魔物の気配がありすぎて逆に分からねえよ。それより」

 逃げる算段を考えないかと提案しようとして、逆効果になりそうな気がして言う前に諦めた。


「何かないのか? 隠れている敵を見つける呪文とか」

「そんな都合のいい呪文はねえよ」

 そしてあったとしても、ティンラッドの前では絶対に使わない。

 敵のいる方向に向かって、無謀な突撃をするために呪文を使うなどやってたまるものか、とオウルは思った。



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