第3話:雪と氷の町 -1-
歩き続けて、ようやく二人は生垣の間にある町の入口にたどり着いた。そこには木戸があり、番小屋がある。
どこの町も、こうやって魔物や盗賊の襲来に備えているのだ。
「おーい。開けてくれ」
オウルは木戸を叩いて、大声を上げた。
「旅人だ。困ってるんだ。入れてくれ」
返事はない。
「まいったな。今、何時だ」
「分からないな。夜中かもしれないな、町が静かだ」
ティンラッドが言う。
ずっと歩きづめで、時間など気にしていなかったし、降る雪で昼間から辺りは暗く、夜なのだか昼なのだかハッキリしないのだ。
すると。
「今は夜の七時で、番人は夕飯を食べに出てるよ」
番小屋の中から声がした。
助かった、と思いオウルは顔を上げる。
番小屋の窓の鎧戸が開き、黒髪の、オウルと同じ年頃の若い男がこちらを見下ろしていた。
色白でなよっとしているが、遊びなれた感じの顔つきだった。
精悍なティンラッドとは違う意味で、女にモテそうな男だった。
気の合いそうもない相手だとオウルは思う。
まあいい。木戸を開けてもらう分には、どんな相手でも関係ない。
「とにかく開けてくれ。ただの旅人だ。二人っきりだし、武器はこの人の持ってるものだけだよ。あやしい者じゃない。頼むよ、まる一昼夜吹雪の中を歩きっぱなしなんだ」
下手に出て、盗賊の類ではないことをとにかく訴える。
小屋の中の男は首をかしげた。
「いやあ。そう言われても。オレはただ火の番をしてるだけで、そこを開ける権限はないんだよね」
「ないって。番人じゃないのかよ」
「違うよ。今言っただろ、番人は夕食食べに行ってるの。で、その間、ここに遊びに来てたオレが火の番をしてるの。火事でも出したら大変だからねえ。かといって、一度火を落としてしまうと部屋が冷えて、暖房効率が悪くなるでしょう。だからさあ、オレがここにいる意味はあるわけ」
「ねえよ。木戸を開けねえ番人の代理なんか、いる意味全くねえよ」
腹を立ててオウルはどなりたてた。
相手は、平気な顔で笑っている。
「さて、ここで相談だ。話によっては、番人を呼びに行ってそこを開けるよう口を聞いてやってもいい」
「賄賂か」
オウルはうんざりした。
「見てのとおりの貧乏人だよ。大して持ってない」
「そんなのは見ればわかるよ。百ニクルやそこらもらっても、何の足しにもならない。そんなケチな話じゃなくて、さ」
男はじろじろと、ロバが引いてきた荷馬車の荷台を見る。
「その荷物。何が乗ってる? 見たとこ、毛皮と水の樽のようだけど」
「あ、ああ。雪オオカミの毛皮があるぜ」
もしやそれが賄賂の代わりになるかと、オウルは熱心に言った。
「雪ウサギの肉もある。必要なら、もっと取ってこられるぜ」
だが、黒髪の男は非情に首を横に振った。
「てんでダメ。分かってないなあ。この雪は、十日降り続いたら一日、必ず晴れ間があるのよ。この村にも狩人はいるからね、その時を狙って毛皮や肉は取れる。欲しいのは、穀物、果物、青物、そういうものよ。もうこの村は四か月近く雪に振り込められてる。もちろん、秋の収穫なんかなし。村の人たちは肉には飽き飽きなんだよ。商売するなら、そこんとこ考えないと」