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第21話:白い街の姉弟 -2-

 太守の館へ使いが出された。返事が来るまでの間、一行は門前で待たされる。


 ただ待っているのもヒマなので、オウルとバルガスは魔術書を開きながら魔術理論についての討論を行う。ティンラッドとアベルは退屈そうにサイコロの目を当てる遊びをしていた。

 ロハスは兵士たちとおしゃべりをして、街の情報収集に努めていた。きっと何が流行っているとか何が安いとかそんなことを聞きだしているのだろう、とオウルは思う。


「どうした。聞いていないようだな」

 バルガスがギロリとこちらをにらんだ。オウルは自分がボーっとしていたのに気付く。

「悪い。ちょっと気がそれてた」

「サルバール師の門下生は召喚術の神髄などに興味はなかったか」

 バルガスがせせら笑う。

「いちいち師匠の名前を引き合いに出すのをやめろよ。それより、何かおかしくないか?」

 オウルは生あくびをかみ殺す。

「何だか妙に疲れてるっていうか。頭がぼーっとした感じだ」


「ふむ」

 バルガスは腕を組む。

「何日も砂漠を横断してきた後だからな。人里に来て、多少気が緩んでもおかしくはないが」

「まあ、そうなんだけどよ」

 オウルはぼりぼりと頭をかく。パラパラと砂がこぼれた。

「それだけの話なのかな。そんな気もするが」

 一晩、宿でゆっくりすれば気分もサッパリするのだろうか。


 それにしても、どことなく落ち着かない感じがするのが気になった。

 いつの間にか、現実によく似た夢の世界に落ち込んでいるような。そこはかとない非現実感は、砂に照り返す日光や白く輝く城壁のせいなのだろうか。


 と。壁の向こうから、にぎやかな楽器の音が聞こえてきた。

 朗らかな笛の音、打楽器の音。シャーン、シャーンと金属製の鐘が鳴る。

「太守様のおなりだ。お前たち、ひざまずけ」

 兵士の言葉に。

 ロハスはたちまち腰を低くし、オウルとアベルもそれぞれの職業の礼の形をとったが。


 オウルはちらりと横を見て、やっぱりと肩を落とした。

 ティンラッドは平気な顔で突っ立っている。バルガスも、その後ろでいつでも剣を抜けるよう構えたままだった。

 

 ソエル国王の前でも自然体で通した船長である。

 まあ、どこへ行っても平伏などしそうにないが。

 空気を読めないヤツは本当に始末に負えない。しみじみそう思うオウルだった。


 城門が開く。

「入れ」

 兵士たちに槍を突き付けられ、頭を下げたまま連行されるように城の門をくぐった。

 背後で、重い音を立てて扉が閉まった。


「ようこそ、旅のお方」

 門の中に整列していた大勢の武装した兵士の間から、鈴を振るような声がした。

「私はこのサラワンの都の太守、パルヴィーン。歓迎をすると申し上げたいところですが、今は何かと物騒な時代。兵により持ち物を検めさせていただきます」

 

 赤い絹の着衣には、一面に豪華な花模様の刺繍がされている。様々な色糸で縁かがりをされた、縁なしの上衣をその上にまとい、美しく長い金茶色の髪の上には極彩色の彩りの被り物を載せている。


 砂漠の陽光のように輝かしく着飾った、美しい顔立ちの若い娘。

 街の前で水をたたえる湖のような深い青の瞳と、赤い唇が対照的に人目を引く。その白い額には、銀の台の上に赤い宝石を載せた装身具が輝いていた。


(この娘が太守?) 

 オウルは驚いた。ソエルでも西の土地でも、女子が社会的地位を引き継ぐことはないと言っていい。

 財産の相続権こそあれど、太守のような権力の座につく者は男。それが常識だ。

 しかも、相手は自分と同年代だ。仮に他に相続権を持つものがいなかったとしても、こんな若い娘に太守の職は務まるまい。後見人がいるのが自然だが。


「私が太守であることが不思議でしょうか」

 その視線に気付いたように、パルヴィーンと名乗った娘は妖艶に微笑んだ。

「そうですね。私は、弟がひとりで政務を見られるようになるまでのいわば中継ぎの太守。しかしそれでも、今現在はこの都の全権を担う者に相違ございません。以後は、そう思って接していただきたい」


 その言葉で初めて、オウルは彼女の後ろに立っている青年に気付いた。

 まるでパルヴィーンが男装したように彼女にそっくりな、ほっそりした体つきの若者が姉と同じ意匠の紺の着衣に身を包み、影のように佇んでいた。

 


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