第21話:白い街の姉弟 -1-
湖は意外に広く、湖岸は入り組んでいた。町の入口に着くまでに半日ほどを要した。
白い煉瓦を積み上げて作り上げられた城壁は、午後の日を反射してキラキラと美しく煌めいていた。
「止まれ。何者だ」
槍を構えた兵士たちが行く手を阻む。
こういう時の交渉役はロハスである。
「いやいや、こんにちは、あやしい者じゃありません。冒険者のパーティです、砂漠を越えてきました。どうか宿を取らせてください。珍しい商品もありますよ」
ニコニコして言う。
返って来たのは冷笑だった。
「ふざけるな。この冬季に砂漠を越えるパーティなどいるか。しかもラクダもなしに」
「商品だって? 荷物も持たず手ぶらじゃないか。どこから現れた。魔物の手先か、それとも盗賊団の先兵か?」
槍の穂先がロハスに向けられる。
「まあ待ちなさい」
そこへアベルがしゃしゃり出る。
「私は大神殿の三等神官です。この者たちは私の連れ。大神殿の威光に従い、私たちを街に入れなさい」
また話がややこしくなるようなことを。
と、横で見ているオウルは思ったが。
「何をバカな。従者も連れずに旅をする大神殿の神官がいるものか」
「だいたい、大神殿なら逆の方角だ。反対側の門にたどり着くはず。嘘も大概にしろ」
やっぱり話がややこしくなった。
「どうする」
ティンラッドが退屈そうに言った。手がすでに刀の柄にかかっている。
「好きにしたまえ。君に従う」
どうでも良さそうに言うバルガスも杖と剣、どちらも手に取れるように身構えている。
「待て待て、待て待て待て」
オウルはあわてて言った。この二人が息を合わせて暴れはじめたら、まとまる話もまとまらない。
それこそ単なる盗賊団になってしまう。
「何でそう戦いたがるんだ。ここで暴れても仕方ないだろう、おとなしくしてろよ。ロハスに任せとけ」
そして。
「疑うとは何事ですか、神罰が下りますぞ! 私は畏れ多くも、大神殿の一等神官ソラベル様に直々に派遣された……」
と憤慨してまくしたてているアベルを捕まえて、後ろの方へ引きずって行った。
コレも、放置しておくとまとまる話もまとまらない。
「おかしなパーティだな。やっぱりあやしい」
兵士たちはますますこちらをにらみつけるが。
「いやいや、まあ。ちょっとお茶目な仲間が多いだけで、意外に胡乱じゃないんですよ」
ロハスが前に出て、愛想よく揉み手をする。
「これはまあ、お近づきの印に。こちらの方にも」
サッと取り出した小さな瓶を、二人の手に握らせた。
「な、何だこれは」
「ソエル王国、トーレグの町謹製の蒸留酒です。なかなかのものですよ」
二人の兵士は顔を見合わせ、それから片方がおそるおそる瓶の蓋を開け、中の匂いを嗅いでみる。
強い酒の匂いがこちらまで漂ってきた。それでようやく二人は少し警戒心を緩めたようだった。
「ふん。悪くないもののようだな」
「それはもう。選りすぐりの商品ですから」
あくまで如才なく振る舞うロハス。
これはこれで才能だな、とオウルは改めて思う。
あの笑顔だけで、アベルやティンラッドやバルガスといった思い切りあやしい面々を引き連れていることを相殺してしまうのである。
考えてみれば大したものだ。
「しかし、我らの一存で街に入れさせることは出来ん。このご時世、何が襲ってくるか分からんからな」
そう言う兵士に。
「そんなあ。勉強させてもらいますからお願いしますよ。恩に着ますって」
ロハスは必殺技『拝み倒し』を炸裂させる。
だが、兵士は首を横に振った。
「ダメだ。我々に出来るのは、太守様に謁見をお願いすることだけだ。この街で商売したければ、太守様に直接お願いし許可を得ることだな。あの方の許しをいただけたなら、好きにするがいい」