第20話:砂漠の旅 -4-
翌日は日の出と共に起き出し、天幕を畳んでまた北へと向かう。
砂丘と岩山の他に何もない荒野に吹きすさぶ風は、相変わらず身を切るように冷たい。
「あとどのくらい歩いたら着くのでしょうな」
しょっぱなからアベルが弱音を吐く。
「さあな。知るか」
オウルは投げやりに答えた。
魔磁針は方位は教えてくれても、目的地までの距離は教えてくれない。
「あとどのくらい歩いたら魔物が出るんだろうな?」
ティンラッドがうきうきとした顔でたずねる。
もっと知るか、と思ってオウルはそれを無視した。
変化のない単調な景色が続く。太陽の位置だけで時間の変化を感じながら、足首まで埋もれる砂の中を延々と進み続ける。
そしてまた夜が来て天幕を張り、翌朝それを畳んでまた歩く。
そんな日が何日も何日も続く。
「いい加減にしたまえ!」
ティンラッドがキレた。
「魔物がちっとも出ないじゃないかっ!」
「船長。それ、キレるとこと違うよ」
ロハスが力なくツッコむ。
「違わないぞ。魔物が出ないんじゃ、どうやって魔王を倒すんだ。これじゃあ旅をしてる意味がないじゃないか」
「アンタはただ戦いたいだけだろ」
オウルも嘆息する。
魔王を倒すと言うが、倒してしまってこの世から魔物がいなくなったらこの男はどうする気なのだろうか。それはそれで面白くないと騒ぎ出しそうだ。
ある意味、魔物があふれる世界に向いている個性だと思うのだが、それを本気で終わりにする気なのだろうかなどとけだるい気分で考える。
「だいたい、君たちやる気が見えないぞ」
何故だか怒りが仲間たちに飛び火した。
「君たちは魔物が出てもちっとも嬉しそうにしない。もっとやる気を見せなさい」
「いや。そんなの船長だけだから」
思わず本音が漏れてしまう。
「オレ、戦闘は苦手なんだよね」
「私も出来れば避けたいですぞ」
とロハスとアベルが次々に言う。
ティンラッドは話にならないと言うようにため息をつき、期待した目をバルガスに向けたが。
「悪いが、私も不必要な戦闘は避けたい性質だ」
冷たくあしらわれてしまった。
「何だ君たち! そんなことで魔王が倒せると思ってるのか?!」
とティンラッドは憤慨したが。
正直、関係ないと思う。第一、魔王が実在しているかどうかさえ分からないのだ。倒せるも倒せないもない。
ということで全員ティンラッドを無視してひたすら前へと進んだ。
とにかくこの果てしのない荒野を抜け出し、人間らしい生活の出来る場所にたどり着きたい。その思いだけはみんな同じである。
ティンラッドもしばらくプリプリしていたが、怒っているのにも飽きたのかそのうち黙り込んだ。
変化のない日が続くうちに、誰も彼も言葉少なになっていく。
夜になり、天幕の中で火を囲むとようやくいくらか会話が交わされる。
ティンラッドが奏でるシタールが、ささくれ立った気持ちを少しばかり鎮めてくれた。
そんな日を何日過ごしたか分からなくなった頃。
大きな砂丘をひとつ越えると唐突に目の前に深い水をたたえた湖と、緑の森が眼下に広がった。
湖の向こう側には白く輝く街の屋根がいくつも見えた。