そしてアレフは
ルデウス四世の演説を聴く群衆の中に、アレフ、ロナルド、ハンナの三人がいた。
海からソエルを出られないことが分かった三人は、別の道を探して都まで戻って来ていたのだった。
「聞いたか、アレフ」
ロナルドの言葉に、アレフは黙ってうなずく。
彼の父、ダルガンを殺したという魔王。
その存在を、国王が認め、敵とすると言い切った。
冒険者を広く募り、魔王を倒した者に賞金を与えるとも。
この言葉で。世界中の人間が奮い立ち、魔王を探して倒そうとするかもしれない。
「父さんの仇は、俺が討つ」
アレフは。低い声で言った。
その瞳に静かに燃える決意に。ロナルドとハンナもうなずく。
「俺も手伝うよ、アレフ」
「私たち、ずっと一緒でしょ?」
仲間たちの言葉に。アレフは微笑んだ。
「ありがとう、二人とも」
かつて。この都の片隅で。
貧乏な魔術師(オウル)が、酔っ払い(ティンラッド)を追い払うために言った適当な一言。
それがいつか波紋となって。
ティンラッドの心に。
ルデウス四世の心に。
ついでにロハスに。
そして今、アレフの心に火をともす。
この波はいつか、この世界を揺るがすかもしれない。
ざわめき立つ群衆の中で、アレフはそう思っていた。
「行こう」
彼らもまた、旅立つ。遠く、西の砦の峠道を、三人は試すつもりだった。
波を起こした当の本人が、「口は災いの元」などと思っていることとは関係なく。
人々は波に揺られ。自らもまた波を起こし。
世界を進んでいく。
それはまた、それぞれの物語。