第19話:王の決意 -1-
ルデウス四世とハルベルの懇願により、その後数日かけてアベルにより王城の建物、城下町の各門に魔物よけの封印が施された。
ちなみにやはり、いい確率で失敗した。
大神殿の特使様がどんな奇跡を見せて下さるのか。キラキラした目で期待している王都の人々。
その前でルーレットが0……ならまだ良くて、-3など指そうものなら。その時の気まずさは筆舌に尽くし難い。
しかもアベルは全然こたえず、
「おや失敗しましたな。まあ、ちょっとしたお茶目です。すぐやり直しましょう」
などとあくまで軽く流す。余計に気まずい。
更にやり直しまで失敗して-9とかいう数字が出た日には、横にいるオウルの方が胃が痛くなる。
あの人のいいルデウス四世のアベルを見る目が段々、懐疑的になっていく様を見届けるのは。
理性ではそれでいいのだと思いつつ、感情的には最後の足場がなくなっていくようで何ともいたたまれない。
それでも、ようやくその苦行は終わった。何とか門に魔物よけの神言が刻まれる。ルーレットの目が1から81までかなりのばらつきを示したことは心配だが、とりあえず何らかの効果はあるだろう。
そう思って、オウルは自分を無理やり納得させた。いつまで効果が続くかは知らないが。
「感謝します、アベル神官」
ルデウス四世は丁寧にアベルに礼をした。
「何。大神殿の特使として当たり前のことですぞ」
アベルは鼻高々である。
が、国王はすぐにティンラッドに向き直った。
「ティンラッド卿。皆さまはこれからどうなさるのです?」
その質問にティンラッドはふがあという鼻声で答えた。退屈した彼は、国王の横の椅子でぐっすりと居眠りしていた。
「あ、あの。俺たちはこれから大神殿に向かおうと思ってる」
あわててオウルが代わりに答えた。
「みんなで話し合った。砂漠を越える街道を使うつもりだ」
「砂漠越えか」
ルデウス四世は眉をひそめる。
「魔物の跳梁がすさまじいと聞くが」
「まあ、それはどこを通っても同じだよ」
オウルはため息をついた。
ロハスが更に深いため息をつく。
「ヤダなあ。オレ、一度あそこを通って来てもうコリゴリなんだよ。西の砦が開いたんだから、森を抜ける道にしようって言ったんだけど。船長が遠回りになるからイヤだって」
森林を抜ける道の方が三年前までは行き来が多かった。十年来放置されている砂漠越えの街道よりは歩きやすいはずだ。
だが、方角的には確かに回り道になる。高山の連なる山脈を大きく迂回していくような道のりになるのだ。
ついでにティンラッドは、
「砂漠越えの道の方が面白い魔物が出そうじゃないか」
と言って、ロハスの反対を押し切ってそちらの道を取ることに決めてしまった。
「さすがティンラッド卿。剛毅な方だ」
ルデウス四世はうなずいている。
アベルに対してはともかくティンラッドに対してはまだ幻想を持っているようで、オウルとしてはホッとしたような心配なような複雑な気分だった。