第18話:酔っ払い放浪記 -4-
「図々しいにも程がある。アンタはコソ泥か。ここは田舎の森の中じゃないんだ、王様のいる城の中なんだぞ。妖怪ぶりを発揮するのも程々にしろ」
オウルにガッツリ怒られたアベルは、不服そうにうなり声を上げる。
「むむう。納得がいきませんぞ。飲んだ覚えがありません」
「アホか。飲み過ぎて記憶が飛んでるだけだろうが。あのな、アンタが捕まるのは勝手だ。盗人として処刑されても、それが正しい世の中のあり方だと思う。けどな、俺たちを巻き込むな」
幸い大神殿の特使というアベルの肩書の効果もあり、彼の行動は酒宴の後にはありがちなお茶目として目こぼししてもらえたが。
密偵の容疑をかけられてもおかしくない行為である。そこまでいかなくても、単純に言って盗人である。
話を聞いた時、オウルは本当にゾッとした。
どこに行っても妖怪は妖怪。
遠慮とか、空気を読むとかいう言葉はこの男の辞書にはない。
これからは徹底して監視しよう。そう、オウルは心に決めた。
「オウル殿は冷たいですぞ。そう言えば」
その瞬間、アベルの脳裏に昨夜の記憶が鮮やかによみがえる。
「ヒドイですぞ、オウル殿。部屋に怪しい呪文をかけ、仲間である私の入室を阻もうとするとは。あんなヒドイ仕打ちは生まれてこの方受けたことがありません。私はただ仲間と酒を酌み交わし、親睦を深めようとしただけだったのですぞ」
切々と訴える彼に。
「何だ。アンタ、来たのか」
オウルは冷ややかな目を向けた。
「結界を仕掛けておいてよかった。そんなバカが現れるような気がしたんだ。鍵をかければ早かったんだがな、万一城で何かが起きて伝令が来た時に部屋に入れないんじゃマズいだろう。どうせ船長は寝てるだろうし、ロハスも先達もアテにならねえし」
オウルはため息をつく。このパーティで貧乏くじを引くようになっているのは自分だ、という思いが改めて胸にこみ上げた。
「ああ。そういえばオレも戸を叩いていつまでも『入れてくれ』と訴えかける、妖怪の夢を見たような見なかったような」
ロハスがうなずく。
「そうだな。この城にゆかりの幽霊かと思ったが、君だったのかね」
バルガスもせせら笑う。
「お二人とも冷たいですぞお。鍵などかけて、水臭いことこの上ない」
アベルは悲痛な声を上げたが、両方にあっさり黙殺された。
「そうか。私は知らないなあ。よく寝ていたからな。アベル、私を起こせば良かったじゃないか」
ティンラッドが快活に言う。
「起こそうとしましたぞ……」
アベルは言ったが、何だかとてもムダな気がしてきてそれ以上訴えはしなかった。
「しかし、やはり納得がいきません。これは何かの陰謀です。私はどこかあやしい場所に足を踏み入れ、そこであやしい会話を聞き、あやしい影を見たのです」
アベルは主張した。
そして、おぼろげな昨夜の記憶を皆に語り聞かせたが。
「あー。アベルちゃん。言いにくいけど、そういうのを世間一般では『夢』と言うんだよ」
「階段から落ちて頭を打ったのだな。まあ今以上におかしくなることはないだろう、安心したまえ」
「酒を飲ませてくれる幽霊か。そんなものがいるなら私も会いたいな! それは酒蔵にいるのか?」
「あやしいのはアンタだ! アンタの存在も行動も全てがあやしいんだよ、自覚しろ!!」
全員、カケラも信じてくれなかった。
日頃の振舞いの結果であり、自業自得である。
教訓:酒は飲んでも飲まれるな