第17話:ソエルの影 -4-
「とにかく。アンタ方がどれくらい把握しているか知らねえが、この国は狙われてるぜ」
オウルは言った。
「西の砦が三年前に、魔物を連れた魔術師に占拠されたのは知っているだろう。ソイツはこの秋トーレグの町の近くに魔物を招喚して、ソエルを混乱に陥れようとしたんだ」
言いながらバルガスをチラリと見るが、相手は涼しい顔をしている。いい根性だ。
「知っています。多数の魔物に突然襲われ、砦の守備隊は逃げ帰るしかなかった。その後も何度か奪還しようと試みてはいるが、凶暴な魔物に阻まれている」
ルデウス四世は暗い顔をした。
「西の砦は解放された。あそこにはもう魔術師はいない」
占拠していた当の本人が、さらりとそう言った。
「魔物はまだ残っているかもしれんが、それらをあの場所にだけ留めている力はなくなった。やりようによっては君たちでも奪還できるのではないかね」
他人事のような口調である。
アンタがアベルにやられたからな、とオウルは内心、意地悪く考えていた。
「まことですか」
ルデウス四世の表情が輝く。
「もしや、西の砦も皆さんが……ティンラッド卿が解放してくれたのか? 皆さんはソエルの救い主だ」
いや一名ばかり違うから。
と言いたい。しかし言えない。
「とにかく。どうやらソエルは狙われているらしい。外界からこの国を分断して魔物を増やす。何だか分からないが、そんな実験場にされているみたいなんだ」
真実を告げたい欲望を押さえつけて、何とか要点だけを伝える。
バルガスは表情一つ変えずに横に立っている。本当にいい根性である。
「莫迦な」
ルデウス四世は衝撃を受けた様子だった。
「我がソエルを、そのようなことに。それが本当なら許してはおけない」
握りしめた拳を震わせた。
「しかし何故だ。何故、ソエルを狙う」
「この国は西方とは離れているからな」
バルガスが言った。
「いくつかの街道や港を押さえれば、それだけで孤立させることが可能だ。実験を行いたい者たちからすれば、良い条件が整っていたということだろう」
「……だってよ」
バルガスをにらみながら、オウルは言った。本人が言うのだから信憑性は高い。
「許せぬ。それが魔王の仕業だと言うのなら、魔王はソエルの仇敵だ」
若い国王はうなるように言った。
「私も魔王と戦う。この国の総力を挙げて魔王を斃さねばならん」
「おいおい。まあ、落ち着けよ」
オウルは慌てた。
国王は若いだけに、カッとなりやすいところがあるようだ。
「いくら腹立たしいからって、相手がどこにいるかも分からないのに王様や兵隊が国を出て行くわけにはいかないだろ。とりあえずアンタはこの国を守ることに専念しろよ」
「む。そうか。そうだな」
ルデウス四世は、少し残念そうに振り上げた拳を下ろした。
「確かに貴殿の言うとおりだ。ありがとう、オウル殿。あなたは私と年が近いのに、大した識見をお持ちのようだ。尊敬する」
「いや」
大げさだ、と思ってオウルは居心地の悪い思いをした。
どうもこの国王、人を過大評価しがちのようだと思った。